お父さんは心配性? 1



宿の一日の仕事を終え、フェアは軽く息を吐く。
その小柄な体は日々の戦いと仕事の忙しさに疲れ、くったりと床へ崩れ落ちてしまった。
ランプにぼんやりと照らされた薄暗い食堂には、無造作に置かれたモップとバケツとフェアの姿だけ。
孤独感を感じながら再び息を吐いた時――視界の隅に何かが映り込んだ。
「夜遅くまで御苦労だな、店主殿」
そこに立っていたのは、御使いの一人であるセイロンだ。
彼はモップに視線を落とすと、無言でそれを拾い上げる。
「そなたはもう休んでおけ。これくらいは我が片付けておくよ。……他に手伝うことはあるか?」
「……え?」
普段店の手伝いなどまるでしない彼が、わざわざこんな時間に自ら手伝いに来るなんて。
明日は槍でも降るのではないかという風に目を見開くフェアに、セイロンは苦い笑みを浮かべた。
「さすがに今日は、そなたに無理をさせたと思うてな」
……彼の言葉で、昼間の戦いで受けた召喚術の痛みが蘇る。
敵の召喚師が放った暴走召喚。それはフェアへと向けられ、逃げる間もなく彼女は直撃を受けたのだ。
激痛で意識を失ったその後のことはフェア自身記憶にないのだが、視界が閉じる間際にいつもの『声』を聞いたことだけは覚えている。
「その腕輪が光ると同時に傷は癒えたものの、強い衝撃のせいでしばらく意識は戻らなかったであろう?それが少々心配だったのだよ」
「あははっ、もう平気だよ。傷は完全に治っちゃってたし……」
危機に晒された時、必ず助けてくれる母親。
泉で一度会話を交わしたきり会えないままだが、それでも彼女はいつもフェアの身を案じて守ってくれているのだ。
お母さんともっと話したい。
そして腕輪を通じて守ってくれていることに、お礼を言いたい。
だがそれはフェアには叶わない願いで、ただ母親を恋しく思うことしかできないのが現状だった。
……俯くフェアの頭を、セイロンの手が優しく撫でる。
「我らの戦いにそなたを巻き込んだせいで、色々と辛い思いをさせてばかりだな。……我にも、何か力になれる事があればよいのだが」
「じゃあ、明日からホールで手伝ってくれる?」
「うっ……む、う」
ケロリと顔を上げたフェアの表情は、いつも通りの明るいものだった。
してやられたとばかりに苦笑するセイロンに、フェアは嬉しそうに目を細める。
「ふふっ、冗談よ。セイロンに接客業なんて期待してないしね?」
率直な言葉に苦々しく目を伏せるセイロンだが、すでに彼の顔から先ほどの翳りは消え失せていた。
どんなに辛いことも寂しいことも、笑顔で乗り越えようとするフェア。
その少女の姿は、周囲の者の心にさえ暖かな日差しをもたらすのだろうとセイロンは思った。
一人の仲間としてではなく、純粋に愛しいと思う。
「あ……」
フェアの頭に置いた手を頬に滑らせると、彼女は小さく肩を震わせる。
淡く染まる頬が、また初々しくて可愛らしい。
「せ、セイロン」
「何かね」
「厨房なら、時々手伝って欲しいんだけど」
「うむ。任せたまえ」
「……それと……」


「オマエ……また無理しやがったな?」
透き通るような銀色の髪を揺らす女性は、目の前の男の厳しい面持ちに俯いていた。
絶世の美貌とも思える彼女の顔は、どこか疲れたように淀んでいる。
男の持つ、水鏡の魔剣を通じて繋がる「夢」の空間で対話する二人。
それはフェアの両親であるケンタロウとメリアージュであった。
「仕方ないでしょう?今日はあの子、いつも以上に危険な目に遭っていたのよ」
腕輪を通じてフェアに力を貸す行為は、メリアージュ自身にも負担をかける。
広い大地で自由に生きる妖精ならまだしも、彼女は薄暗い牢獄のような空間に閉じ込められている存在だ。
そんな彼女がこれ以上力を使い続ければ、いずれは――。
「んなコト言っても、オマエが消えちまったらどうしようもねぇだろうがよ……」
儚げな美貌を見据え、ケンタロウは困惑気味につぶやいた。
「ケンタロウは、あの子が心配じゃないの?まだ十五歳の女の子なのよ」
「アイツなら大丈夫だって!ラウスブルグの御使い達は十分戦力になる連中だ。オマエの助けがなくったって、上手くやっていけるはずだぜ?」
中でも、フェアのところへ向かうように言付けた、セイロンという男。
龍人であり御使いの次席という彼は、なかなか頼りになりそうな人物だった。
きっとフェアに様々な助言をし、力になってくれるだろう。
「……それに、よ」
自信満々に腕を組み、ケンタロウは満面の笑みを浮かべる。
「なんたって、このオレ様の子供だからな!」
能天気に笑う夫の姿に、メリアージュは口をつぐむ。
……自分の子供を信頼しているのはいい事だが、彼にはその為の重要な部分が抜けているのだ。

すなわち、五歳で放置。
その後の成長過程は一切知らず。

異空間から今までフェアを見守り続けていたメリアージュは、娘のこれまでの人生を見ているのだ。
寂しいと泣いていた夜も、仕事の辛さに耐える日々も、友人たちとの楽しいひと時を過ごす姿も。
……やはり親として、少しくらいは子供の身を案じる気持ちを持つべきではないのか。
メリアージュが目を伏せた瞬間――ある考えが脳裏にひらめいた。

「そうだわ、あなたも見るといいのよ!」

「……何がだよ?」
突然の妻の大声に首をかしげるケンタロウ。
だがメリアージュは勢いの収まらない状態で彼に飛びつくと、きらめくような瞳で見上げた。
「ねえケンタロウ。今のあの子の姿を見てみたくはない?」
「なっ……?」
成長したフェアの健気に頑張る姿を見れば、きっとケンタロウも考えを改めるかもしれない。
メリアージュが片手をかざすと、そこにぼんやりとした小さな光が現れる。
やがてそれは一メートルほどの円形となり、二人の前に浮かんだ。
「お、おい。別にオレ様は見たいなんて言ってねえぞ」
「あら、可愛く成長したフェアを見るのが照れくさいのかしら?」
「違うっつうに!アイツの頑丈さはオレ様ゆずりなんだから、わざわざそこまでする必要なんざねえってことだよ」
髪をかきながら面倒くさそうにつぶやく。
そして次は、冗談交じりに笑みを浮かべて見せた。
「それに今は夜中だぜ?アイツはオレ様の子供だし、もしかするとマセガキの一人でも連れ込んで、今頃ヨロシクやってるかもしれねえだろォ?」
「あ、あなたってば!?」
「だっはっはっは!」
とんでもないことを笑いながら言ってのけるケンタロウに、メリアージュの頬が紅潮する。
いくらなんでもフェアはまだ十五歳。
友達や料理などのことで心を満たされた、健全な少女なのだ。
軽く咳払いし、気持ちを落ち着かせると、メリアージュは光の円に手をかざした。

……うっすらと浮かび上がるフェアの顔。
その瞳はぼんやりと開かれ、顔とともに下を向いている。

昼間の元気な表情とは正反対のそれに、メリアージュは眉をひそめた。
「フェアのやつ、口元に手ェ当てて……なんだ?気分が悪いのか?」
まだ鮮明に映りきらない映像を、目を細めてケンタロウは見つめる。
……光の中のフェアはなぜか時折苦しげに目を細めていた。
ケンタロウの心にわずかな不安が生まれるなか、娘の姿は徐々にはっきりと浮かび上がっていく――のだが。

『ちゅぽっ。』

「……………………」
……映像の中から聞こえた水音とともに、フェアの口内から抜き出される棒状の物体。
舌先から糸を引く唾液は、その謎の物体の先端をてらてらと光らせていた。
『ぷはっ……ん、む』
無言の両親をよそに、フェアは熱の篭った視線でそれを見つめると、再び口内へと導いていく。
時折舌を出して物体をたどたどしく舐め上げては、指先でそれを愛おしげに愛撫していた。
「これって……何かしら?新作料理の味見……だったり?」
「……えーっと。オレ様はソーセージの作り方は教えてねえ。うん。……うん」
じわじわと額に汗が浮かび上がるが、そんなことなど気にしている場合ではない。

――随分リアルな形のソーセージを作ったじゃねえか。さすがはオレ様の子供。まるで本物だぜ。
何がリアルって……そりゃオマエ、ソーセージをリアルに……ソーセージ……――

その時、ケンタロウの見開いた瞳に映ったものは。
「まさか……オイ」
フェアの頭を撫でる手と――赤くて黒い派手な袖。



「あっはっはっは!善哉善哉。まことに良い舌遣いだ、店主殿」
「んっ……む、セイ……ロンってば!」
その場の雰囲気をぶち壊すような軽快な笑い声が、室内に響く。
ベッドに腰掛けたセイロンの脚の間。
そこにしゃがみ込むフェアは、彼の言葉に怒りと恥ずかしさの入り混じった声を上げた。
しかしセイロンは平然とした風に手を伸ばし、唾液に濡れた彼女の唇をそっと拭い取る。
「はて。この手の場で我が黙ると気恥ずかしいと言ったのは、そなたであろう?」
「そ、それはそうだけどっ。でもそういう言葉以外で……」
「ふむ、ならば」
困惑したフェアに顔を寄せる。
伏し目がちに意地の悪そうな笑みを浮かべると、セイロンは再び口を開いた。
「……そなたは一体、我のどのような『声』が聞きたかったのかな?」
「なっ、あ……う……!?」
小首をかしげて尋ねる彼の口調は挑発的だ。
その囁くような低い声色でフェアは何を思ったのか、みるみるうちに頬を紅潮させていく。
いまだに初々しい反応をしてくれる少女があまりに可愛らしく、セイロンは口の端を笑みで吊り上げた。
「しかし我がそちらの『声』を出すには、店主殿にも更なる上達を期待せねばなるまいな」
「ううっ。わたし、これでも一応頑張ってるんだけど……」
「あっはっは。そう落ち込まずとも、そなたの愛撫は十分に心地良いよ。……どれ、今度は我が良くしてやろう」
「あっ……」


「御使いのセイロンじゃねえか――――ッッ!!?」
空間に大音量で響き渡るケンタロウの声だが、無論フェアたちに聞こえるはずもない。
大型ワイドテレビ並の大迫力で繰り広げられる娘の濡れ場に、父は唇をわななかせながら釘付けとなっていた。
「凄いわケンタロウ!あなたの予想が大当たりしてるなんて」
「あ、いや、その……ははははっ!……すげえ、だろ」
……まさか本当に言ったことが現実になっているとは思わなかった。
だがセイロンはマセガキ坊主どころか、下手をすればケンタロウ自身の歳をはるかに上回る成人男性だ。
……フェアのところに向かえとは言ったが、ついでに手を出せと言った覚えはない。
普段チョイ悪オヤジを気取るケンタロウの顔からは脂汗が滲み出し、そのゴーグルは全身から噴き出す熱気で白く曇っていた。
大体まだ歳若いフェアを全裸にさせておいて、自分はかっちり服を着込んでイチモツだけを出すなんてどういう了見だ。
もしかすると鬼妖界ではさほど珍しくもないのか。
悶々と脳内で自問自答を繰り返している時、ふと背後から視線を感じる。
振り返れば、メリアージュが嬉しそうに笑みを浮かべていた。
「ふふっ。何だかんだ言っても、可愛い娘が心配なのね?」
「ば、バカ言ってんじゃねえ!?オレ様がガラにもなく心配なんてよ!まだ十五歳だってのに大した奴じゃねえか、大人の男を魅了しちまうなんて……は、はははっ!」
意地っ張りな性格は元の世界にいた時から変わらないのか、ケンタロウは曇りすぎて遂に見えなくなったゴーグルを拭きながら引きつった高笑いをする。
「あらまぁ……!あのセイロンって人、あんなコトを」
「待て待て今度は何だぁっ!!?」
瞬時に映像に飛びつく夫の姿を尻目に、メリアージュが笑いを堪えていることなど彼は知らない。


「せ、セイ……ロン。やっぱり、こういうの恥ずかしいよ……」
シーツの上で仰向けに寝かされたフェアは、頬を染めながら小振りな胸を上下していた。
浅い呼吸で動く二つの丘は、それだけで少女としての初な独特の色香を醸し出す。
加えて淡い朱を帯びた肌が妖艶に火照っているとなれば、男が劣情を抱かないはずがない。
しかし羞恥心で固く目蓋を閉ざすフェアには、そんな姿をセイロンに見つめられていることなど分からないのだが。
「そう言うな、店主殿。そなたばかりにあのような事をさせては、割に合うまい?」
セイロンの声が耳に届くたび、その熱い吐息がフェアの秘所へと触れる。
いくら視界を閉ざしていようと、肌の感覚は余すところなく彼を捉えていた。
太ももの内側を彼の髪が撫でると同時に、湿った柔らかなものがフェアの陰部の淵をなぞり、小さな肉芽をついばむ。
「ふぁっ……!や……んぅっ」
セイロンの舌が水音を立てて秘所を這うと、思わずフェアの口から甘い嬌声が漏れた。
ざらざらとしたそれが最も敏感な頂点をくすぐるたびに、否応なく少女の小さな背筋が震え仰け反る。
……表面上は恥ずかしさで拒んでいても、彼女の体は愛撫に素直に応えてくれている。
込み上げる満足感にセイロンは口元を緩ませていた。
「そもそも、そなたのほうから誘いに来ることなど珍しいからな。ここは感謝の意を込めて存分に振舞ってやらねば、我も男としての面子が立たぬよ。……一体どのような風の吹き回しだったのかな」
そう言うと、彼の指がフェアの陰唇を押し広げる。
「別に、深い意味なんて……ぁ……」
唾液の絡んだそこは息づくように震え、奥から蜜を溢れさせていた。
広げた二本の指の間であらわになる女性器。
そのわずかに綻んだ入り口は、既に男を知った物だということを証明している。
セイロンの熱の篭った視線を感じ、一層赤らむフェアの表情を見れば――その相手は考えるまでもない。


「済みってか!?とっっくに!開通済みってか――ッ!!??」
「しっ!静かに!聞こえないじゃないの」
絶叫するケンタロウの横で映像にかぶりつくメリアージュの姿は、昼ドラに没頭する主婦そのものだ。
「そ、そういや、オマエはフェアの日常を見てたんだろ!?コイツとこんな関係になってることは知ってたんじゃねえのかよっ?」
「私だって、四六時中この子の様子を見てたわけじゃないのよ。それに見ていたのは大抵昼間だったし……本当に迂闊だったわ、こんなことになっていただなんて」
険しく眉を寄せ、メリアージュは小さく息を吐く。
やはり彼女も、本当の心境は自分と同じだったのかとケンタロウは内心安堵し――
「これからは、夜もチェックしないと見過ごしちゃうわね」
「オマエそれでも母親かよ!?」
「あなたにだけは言われたくな……コホン。あら!そんなことより、そろそろ本番に行くみたいよっ?」
「ほ、ほんばっ……!?おいちょっと待ちやがれぇっ!!」


「…………」
「どうしたの?セイロン」
「いや、先程から誰かに見られている気がしてな……」
訝しげに周囲に目をやるセイロンだが、気のせいかと諦めると正面のフェアを見据えた。
彼女は胡坐を掻いたセイロンの上で、向かい合って腰を浮かせている。
しかしいまだ気恥ずかしさに慣れないのか、彼のうなじに顔を埋めたまま一向に次の段階に進もうとはしない。
「店主殿。やはり我が上になったほうが良いのではないか」
顔の見えない状態でフェアに声をかけるが、彼女は無言で首を横に振るばかりだ。
代わりにセイロンの着物をしがみつくように握り締める、布擦れの音だけが部屋に響いた。
……どうにも引っかかる。
「……もしや、我を喜ばせてくれようと無理をしているのではないかね」
「えっ!?」
突然の彼の言葉に、フェアはガバッと顔を上げる。
返答は聞かずとも分かった。図星だったらしい。
「そなたのほうから夜伽の誘いが来ただけでも珍しいというのに、かのような奉仕まで受けては疑問に思うのも当然であろう」
セイロンの考えに間違いはなかったらしく、フェアは頬を染めたまま唇を尖らせる。
やがて小さく何かを呟いたが、よく聞き取れない。
フェアの口元へ耳を寄せると、彼女は弱々しい声を再び口にした。
「セイロンが……最近、来てくれないから」
「なんと。理由はそれだけか」
「そ、それだけって!わたし不安だったんだよ!?ここ一週間、普通の会話しかしてなかったし、二人っきりの時でも全然そういう素振り見せなかったし……って」
話も終わらないうちに、セイロンの手がフェアの頭を撫でる。
「せ、セイロンッ」
「済まぬな、店主殿。そなたの為と考えてだったのだが、いらぬ気遣いであったか」
近頃の激化する戦いや、フェアが響界種という事実を知ってしまったこと。
それが彼女の精神に多大な負荷を与えていることは誰もが知っていた。
そんな中で、フェアの心情も考えずに色恋沙汰を求めようとするのはあまりにも愚かしいと思っていたのだが。
「心身ともに疲労したそなたにこれ以上無理はさせられぬ、そう思って耐えていたのだがな」
「無理だなんて……むしろ、こういう時にセイロンがそばにいてくれないと、わたし辛いんだよ」
着物を掴むフェアの手に力がこもる。
どれほど強い心を持つといえど、彼女はまだ十五の娘なのだ。
自分がそばにいてやらねば、とまで己惚れるつもりはセイロンにはない。
だが、この少女に心の拠り所として望まれるなら、それほど嬉しいことはないし力になってやりたいと思う。
「うむ。……承知したよ、フェア」
にこりと微笑むセイロンに、フェアの顔からようやく安堵の表情が浮かんでいた。


映像の中のフェアたちのやりとりを、至福の笑顔で眺めるメリアージュ。
反してケンタロウは、今なお青ざめながら二人の姿を凝視していた。
「ふふっ。あなたったら、すっかり拗ねてしまってるのね」
「す、拗ねてるとかそんなんじゃねえよ!……ああっちくしょう!」
父親譲りの頑丈さを持つフェアを、今まで本気で心配したことは正直一度もない。
だが、今回ばかりは状況が違うのだ。
男として、父としての性か。
我が娘を抱こうとする男を目の前にし、平常心を保っていられるほどケンタロウは冷静な人間ではない。
「あアァ――――ッ!!」
ケンタロウの悲鳴にメリアージュが映像を見ると、ちょうどフェアがセイロンに跨り膝の上で結ばれようとしている所だった。
まだ幼さの残る入り口を広げ、ゆっくりとセイロンのそれを受け入れていくフェアの顔は、まだ慣れぬ苦痛にわずかに歪んでいる。
もはやここまで来ると、娘のプライバシーもへったくれもない。
『……痛くはないか?フェアよ』
「痛えよ、オレの心が痛えよ!!」
映像のセイロンの問いかけに、何故かケンタロウが絶叫して答えている。
……高鳴る鼓動を両手で押さえながら、ケンタロウは心の中で必死に呟いた。
そういえば、御使いはあいつ以外にもいたはずだ。
その仲間たちは、今何をやっているんだ。
この部屋には十五歳の少女に手を出すロリコン野郎がいるというのに。
今すぐこの部屋に誰かが来てくれれば、この濡れ場は回避できるはずだ。
――ハッと何かを思い出し、ケンタロウは両手を合わせる。
(神様仏様……!!どうか『愛されし者』のオレ様にご加護を!誰でもいい、あいつらの部屋に向かわせてくれ!!)
リャーナの加護がメリアージュのものだという記憶は、混乱した頭からは既に消滅していた。


「んっ……あ、う……」
フェアはゆっくりと腰を沈め、セイロンを受け入れていく。
ようやく根元まで飲み込んだとき、彼女は汗を浮かべながら安堵したようにセイロンを見上げた。
まだ男を知って日の浅い少女の顔は、慣れない感覚にまだわずかな苦痛を覚えているのだろう。
「辛ければ、無理をすることはないのだぞ?」
「へ、平気だよ。……ごめんね。痛そうな顔ばっかりしてたら、男の人はいい気しないよね?」
「……いや、我はそのようなことは」
「わたしも、もう少し経験増やせば一緒に気持ちよくなれると思うんだけど……でも、焦ってどうにかなるものじゃないもんね」
経験、か……。
フェアのつぶやきに、セイロンは虚空を見上げる。
古き妖精と人間の血を引く、愛しい少女。
……彼女の日々の疲れを少しでも癒してやれればと、こうしてフェアと共に夜を過ごしているのだが。
なかなか行為に慣れることができない彼女は、セイロンにそれを申し訳なく思っているらしい。
フェアを癒すどころか無意識に悩みを増やさせていたことを知り、セイロンは静かに目を伏せた。
「我としては、そなたには遠慮なく心身を開放して貰いたいのだがな……」
それを実現するには、まずフェアが男女の営みに、素直に快楽を感じるようになることが重要なのだが。
「フェア――」
その時、遠慮がちにドアのノック音が聞こえた。


「おおっ……?」
映像の中で、何者かがドアをノックする。ついに奇跡が起こったのだ。
フェアたちは突然のことに動きを止め、沈黙してしまっていた。
しばらく返事がないことに痺れを切らしたのか、その主は無遠慮にもドアを開けてしまう。
……後の反応はいうまでもなく、その人物は目の前の光景に言葉を失っていた。
よし、そのまま不純異性交遊を行う二人の体を引き剥がしてやってくれ!
ガッツポーズを構えながら、ケンタロウが勝利の笑みを浮かべたその時。


「いやあ、これは失礼しました!お二人が熱〜いまぐわいの最中だったとは、露知らず」
「……シンゲンよ……」
まったく驚く素振りも見せず、わざとらしい笑顔で頭を下げたのは眼鏡の侍だ。
何となく予想していた人物の登場に、セイロンはため息混じりに視線を投げかける。
硬直しているフェアの裸体はセイロンが袖で隠したものの、繋がっている状態から解放してやるには無理のある状況だった。
「自分が部屋で寝ていたら、隣室から苦しげな声が聞こえるじゃありませんか!そこで慌てて飛び込んできたわけですが……いやいや、あっははは」


「……なんだ?コイツ……」
突然の怪しげな新キャラの登場に、ケンタロウの額から再び脂汗が滲み出る。
よく分からない。よく分からないが……。
何か、とてつもなく……嫌な予感がすることだけは確かだった。


つづく

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