ミルリーフ&フェア陵辱



 ずるり、と背中を太いものが滑っていく感触に、ミルリーフは身を震わせた。繊毛をびっしりと生やしたそれは常に透明なゼリー状の樹液をまとわりつかせ、守るものを一切纏わぬ柔らかな肌に擦過傷を残さぬよう配慮が為されていた。
 それは背中に限らず、縛めはりつけの如き体勢をとらせる蔓から、這いずり撫ぜる枝から、割り開かれた脚の付け根、樹液とは別の体液を流す場所より今正に捩れ這い出す根から分泌されていた。
 肉の淡い桃色がゼリーを透かしとろりと光る。
「あはは……っ」
 陶然と笑う声に、苦痛の色は皆無だった。
 長い侵食に全身の力が失われていても、上下左右何処を見渡そうとも蠢く植物の蔓とも根ともつかぬ触手しか視界に入らずとも、縛められた身が触手に呑まれ上下の別すらついていない状態だとしても、だ。
 腋の下に頑丈な二本が取りつき、上半身を持ち上げる―――或いは後ろに逸らし下ろす。
 姿勢をねじられてもミルリーフの位置自体は揺るがない。
 何しろ、肛門から真直ぐな根でもって貫かれていたので。
 ざわざわと景色そのものが蠢く。
「あはは……うん、ミルリーフに、おいで」
 眼前に差し出された巨大な一本へと手を伸ばし、太い幹に舌を這わせる。幼い竜の子を貫くには大き過ぎる枝はそれだけで蠕動し、「きゃっ」先端から僅かに濁る粘液を吐き出した。
 ミルリーフは躊躇無く粘液を指で掬い口へと運ぶ。粘液が唾液と絡み、むせかえるような芳香が漂った。
 吐き気がするほど甘いにおい。
 飲み下すと食道から胃にかけてが熱くなる。
 喉が。胸が。腹が。胎が。内側から炙られ、犯される。
 ―――満たされていた場所が再びの行為を望んでいる。
 細い太腿に蔓が巻きつき固定しているのでなければ、白い脚をすり合わせ、僅かなりとも欠落を埋めようとしていただろう。
 その必要はなかった。
 ミルリーフは、唯、受け入れればよかった。
 ずるりと肌を這いずる感触。粘液が薄い内腿の皮膚に染みをつくり、ぱっくりと口を開け涎を垂らす部分へと勢いをつけ潜り込んだ。
 反り返る背。衝撃は、二度。
 ミルリーフの狭い場所に、二本の根が同時に這入っていた。無理に拡げることがないよう細いものだったが、ぐいとばらばらの方向に刺激を与えられ腰が跳ねる。
 奥へ、奥へ。肉壺の中ゼリーと体液と蔓が混ざりかき回される。生まれるのはひたすらの快楽。溢れた液体がミルリーフの腹へぽとりと落ちた。
 ざわざわ。ざわざわ。潮騒にも似た喧騒が全ての方向からミルリーフを包む。
 刻む震動がミルリーフの華奢な身体を揺らし、精神を揺らす。内側から強く叩かれてミルリーフは白い喉をのけぞらせた。
 ぎゅうっと一度だけ狭い場所が押され。脹らむ先端から、熱いものが注がれる。
 それはミルリーフの胎内に辿り着くと同時に限りなく微細になり全身へと拡散していった。
「……あ、いっぱい……また、ミルリーフの、なか……」
 貫かれた場所からじんわりと温かくなる心地好さに涙で濡れた睫毛をしばたかせる。

 それは、魔力。
 幼い竜の子を本来の過程より急速に成長させる為の要素。

 僅かに自由になった手でお腹をさする。
 以前は大人になるのが怖かった。“大人”になって母親と離れてしまうのが怖かった。至竜より受け継いだ力から『親離れ』を経験でも本能でもなく知識として知ってしまったことが、幼い精神を混乱させたのだろう。
 けれど今は大丈夫。
 大人になるのは怖くない。
 ―――だってママが一緒だもの。
 “城”の何処かにいる母親を想う。大丈夫、ママがずうっと一緒にいてくれる。ミルリーフが“大人”に。至竜になっても、ずっと。
 ざあ、と景色が唸った。
 そう。至竜になったミルリーフが“城”に取り込まれてしまうとしても―――ずっと。

「あはははははははははははははははは―――」

 此方の名はラウスブルグ。ラウスの命樹に護られし“呼吸する城”。
 ラウスの命樹が必要とするのは、力持つ龍と古き妖精。
 幾百の蔓と幾百の根を伸ばし、幼き竜に魔力を注ぐ―――来たる日、“彼”の苗床を得る為に。

 無邪気な笑い声が、“城”の暗闇に遠く響いた。



 声を、聞いた気がする。
 けれどもうどうでも良かった。
 フェアは素裸で伏していた。暗闇の中でぼんやりと腕輪が光る。今となっては、大嫌いな父親が残したこの腕輪だけがフェアがフェアであることを思い出せる唯一の品だった。
 ヒトですら無いモノに犯された、穢された自分、守れなかった自分。それなのに、まだ自分が『フェア』であることに安堵している。
 感じてなんかいない。
 気持ちよくなんかない。
 行為は痛いだけ。
 身体はとうに壊れて心が擦り切れていたとしても、フェアは自分から求めたことはなかった。今となってはそれだけが笑えるほどちっぽけな矜持。

 靴音。

 ああ、まただ。フェアを踏み躙りに、またやって来た。
 言葉もなく組み敷かれ、獣のような四つ足の体勢で蹂躙される。何時もの行為。何時もと違うのは、彼の手にある緑の輝き。一番最初の、召喚獣を使用した陵辱を思い出し刹那怯えが生まれる。けれど恐怖も消える。何も感じたくない。感じなければ、最後に残った部分だけは守ることが出来る。何も思わなければ、あの子を恨まずに済む。
 召喚術の輝き。
 何ひとつ感じるものか。ドライアードの口付けも、身を絡めとる蔓も、徹底的に無視してやる。
 フェアの決意は無駄に終わった。
 召喚術が発動しても、暗い空間には何者も現れなかった―――ように見えた。
 ちく、と。
「……っ?!」
 首筋に鋭い痛みが生まれる。思わず手を当て頭を巡らせば、何処から入り込んだのかエメラルドグリーンの翅をはばたかせる蜂が飛んでいた。透明な腹から突き出た針、その先からこぼれる雫を、フェアははっきりと見た。
 鼓動が、跳ねる。
 持ち主と同じく生きるに最低限の活動だけを静かに繋いできた心臓が、急激に早鐘を打つ。
 刺された。
 靄のかかった頭が必死で手当てをと訴える。蜂に刺された時の応急処置はどうだったっけ―――?
 役目を果たし消える蜂を。元の世界に戻る召喚獣を眼前に、フェアは冷えて感覚を失う指先に呆然としていた。何か。なにか、しなければ。これは、
 男が、フェアの二の腕を掴んだ。
「―――っ、あ、」
 一瞬の空白。
 脳が感覚を遮断し精神を守ろうとする儚い防衛行動。
 次の瞬間には破られる、哀れな最後の抵抗。
「あ、や、―――やだ放して放して熱い熱いあつい―――ッ!」
 冷たい肌に爆発的に広がる熱にフェアは絶叫した。温度を通り越し痛覚を乱打する感触は男の掌から始まる。次に肩甲骨付近。床へとうつ伏せに押し付けられて屈辱的な格好でそれすらどうでもよくなる強烈な、熱。下半身は男の脚に押さえられ、ズボン越しに不吉な熱が伝わる。じわりと炙るそれは新たな恐怖をフェアに与えた。
 料理の湯気とも、はねる油とも、風呂焚きに使う薪のはぜる火の粉とも違う、そんなものとは次元が異なる皮膚が溶ける錯覚すら引き起こす熱さだった。対照的に、フェアの身体は急激に冷たくなる。末梢が鈍く痺れ動けない。心臓だけが悲鳴を上げて暴れる。
 二の腕から男の掌が離れる。腕には痕跡は皆無。火傷も、赤みすら見当たらない。異様な早さで体温と自由を失う感覚だけがあった。
 手が向かうのは。
 下腹部を、熱が貫く。
「っか――――――」
 身体の奥に大事に隠された器官―――子宮を打ち抜く。
 手は腹を逆撫でし、ふくらみかけの乳房へ、先端の硬く尖った部分へ向かう。
 掻き毟りたくなる熱とぞっとするような冷気とを交互に繰り返しながら、フェアは陸揚げされた魚よりも哀れに震えた。

 連綿と続くかに思えた苦痛は、唐突に終わりを告げる。
 今までがぬるま湯にすら思える衝撃が、フェアの最も傷つきやすい柔らかな場所をひらかせたからだ。
「……や、……たすけ」
 質量が。熱が。フェアを。
 外側から触れられただけでこの有様なのに、内に受け入れてしまえば一体どうなるのか―――?
 答えは。
 声が。
 声とも呼べぬ意味を成さぬ叫び声が。

 粘性の高い溢れる蜜をこじ開け進む音と歓喜のまま男を受け入れる肉と心を裏切る嬌声とが全ての答えだった。

 狭いナカを通すため溢れかえる体液は太腿を伝い幾筋もの痕を残す。僅かな身じろぎだけでぐちゅりと空気を含む音がした。
 それは。あまりに強くて、『熱』としてしか認識不可能なまでの。
 決して認めたくない感覚。
 其処は熱を直に受ける前からどろどろに蕩けていた。男が這入ってきた時、むしろこちらが自然と、潤う場所は貪欲に絡みつく。闊達な少女本来の容姿とは極端に縁遠い、イヤラシイ姿だった。
 フェアはうわ言のように、止めて、と繰り返す。
 高く上がった腰はフェア自身の体液で塗れ、四肢は力を失いだらしなく投げ出されている。
 抵抗を放棄した身体と。引き抜こうとした男に縋りつきめくれ、間髪入れずの挿入に悦ぶ部分と。意味も無く繰り返される言葉と。一番正しいのはどれだろう。

 男の手が、肘から手首を辿る。
 鈍い熱。灼けるようにあつい。
 触れるのは腕輪。フェアの父親が唯一フェアの為に残してくれたもの。
 痺れる熱が腕を覆う。鼓動は速いまま。熱い。熱い。
 苦しい。
 腕輪ごと細い手首が握られて。腕輪の力を思い出させられた。フェアを護り、助ける不思議な光。失った体力を回復し、ありとあらゆる不調を打ち消す浄化の翠光、それは、現在フェアを犯す毒をも消し去ることが可能であると。
 力の発動条件は、ひとつ。フェアの危機。
 意識を失う間際に現世へと引き戻すその力は。
 ずる、と胎を削られて思考が途切れる。朦朧とする視界。そもそも今のはフェア自身の考えだったのか、それとも交わる男が囁いたものだったのか?
 心臓が益々はやくなる。毒だ。身体が冷たい。男が押し潰す場所だけ熱い。ああ、早く、はやくしないと。

「死んでしまうよ?」

 優しい囁きに、フェアは心から恐怖した。死、が近くにあった。
 何事かを絞り出そうとした唇からは、しかし甲高い悲鳴が洩れる。男が強くナカを突いたのだ。ホワイトアウト。すぐに回復。意識は保持、毒もそのまま。
 この程度では足りないのだ。
 心臓が徐々に冷たい毒に侵食される。
 もっと強い衝撃でなければ、意識を失うことすら叶わない―――キミは。
「うあああああああっ!」
 悲鳴だった。もしくはケダモノの咆哮だった。肉のぶつかる音が響く。弛緩した四肢に力を込め、無我夢中で前後に揺らす。死にたくない、その一心で己れを貫く男根へと奉仕する。否、それは二つの意味で間違っていた。フェアの動きは相手のことを考える余裕を持たぬ滑稽なほど性急なものであったし、行為の目的はつまるところ快楽を得るものだったからだ。
 毒の与える気が狂うような快楽から逃れるために、気を失うほどの絶頂を求める。
 矛盾にフェアは気づかない。
 気づいたとしても、一度外れた箍は戻らない―――むしろそれこそが―――矜持に邪魔され続けてきた、快楽に溺れることこそが望みだったのかもしれなかった。
 音。粘る気泡の弾ける音。腰を掴む手。鈍い衝撃。奥。
 まだだ。まだ意識が戻る。苦しいまま。冷たいまま。
 泣きながら腰をぶつける。ぐちゃぐちゃになった其処が底までめくれるのが分かる。或いは錯覚。
 強く押さえられてかき回される。熱のカタマリが内側を融かす。
 まだ。まだ。心臓がもう―――。
 指、が。
 無残に男の形に広がる秘裂、その間際の花芯を抓み、
「―――ッ、」
 呼吸が止まる。
 みっしりと繋がった場所に加わる熱。奔流が一番奥へと叩きつけられる。それが止め。
 溢れる翠の光。
 フェアの身体から毒が消える。冷たさが消える。けれど快楽はそのまま。悦楽を認識する意識もそのまま。鈍い輝きが収まる頃には、自ら求めたという事実を自覚したフェアだけが残った。
 繋がったままの箇所からごぼりと白濁が零れる。

 残るのは、最後のささやかな矜持すら奪われた少女がひとり。
 疲労からの眠りに逃げることすら許されず「初めてキミから求めてくれたね」優しい嘲りと召喚術の詠唱。

 羽音と。心が静かに壊れる音を聞き、フェアは緩慢に力を抜きかぼそい首を晒した。
 否定も肯定も放棄し唯々流される為に。



 何も考えないのであれば、見ずに済むのだ。
 この絶望がフェアが死ぬまで続くことを。フェアの腕に存在する枷がフェアを死なせてくれないことを。
 ―――永遠と見紛うまでの饗宴は、始まったばかりということを。


おわり

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