『捕虜のソノラ』 Part1



 ソノラは山賊たちに捕らえられていた。
 海賊一行はたまたま見えた島に上陸して食料や水を調達することが目的だった。ところが山賊一行は海賊らが島の宝を盗みに来たと勘違いをしていた。そのため海賊一行はピクニック気分なのに対し、山賊一行はまさに戦争状態に陥っていた。幸い、山賊はアリのように地中を掘って地下に隠れ家を作っていたため衝突は避けられた。
 ところがソノラを捕らえた山賊一行は海賊一行の目的を知る由も無く、また、その目的を嘘だと思い込んだ。肝心のカイルが釈明しない限りこの誤解を解かない限り、ソノラが開放される見込みなど皆無に等しかった。
 
 ソノラはある部屋で尋問を受けていた。部屋がちょうど島の絶壁に面しているため、海を監視するための穴――というより展望用の窓が掘られている。その反対側には木製のドアがあった。
 部屋の中央に机が一つ。窓側にソノラ、出入り口側に一人の山賊が座っている。
「頼むからいい加減吐いてくれよ」と、山賊の一人は言った。
「だから、知らないってさっきから言ってるじゃん」と、ソノラは言った。
 山賊は朝から何も食べていなかった。昼も過ぎ、そろそろおやつでも食べるような時間だった。
「朝からなんにも食べてないんだけど、なんか出してくれてもいいんじゃない?」
 ソノラも同じだった。
「お前がどこで宝の情報を聞きつけたのか吐いたらいくらでも食わせてやる。だから吐け。こっちだって腹が減ってるんだ」
「だから知らないって。宝なんて話もさっき聞いたばかりだよ。そっちが先に騒ぎ始めたんじゃん」
 ソノラはぶーぶーと不満を漏らす。
「じゃあ約束してくれ。飯を食ったら、な? それならいいだろ?」
「ふざけないでよ。あたしだって知らないこと言えるわけないじゃん。せめてなんか食べてから続きをやってよ」
「いや、それが駄目だから飯を食えないわけで……」
「なんでよー。どうにかならないの? お頭って奴に聞いてきてよ」
「んん……」
 捕虜なのにソノラは横柄だった。山賊も人が良過ぎて話にならない。
 男は無言で立ち上がり、部屋を出て行った。お頭に事情を説明しに行ったのだが、後に誤解を生むこととなる。
 
 ソノラは余裕だった。カイルが気付けば助けに来てくれるだろう。食料調達から戻ればすぐに気付いてくれるはず。他の手下だってすぐに気付いて探してくれる。しかし、仮に気付いたとしてもこの島に人がいるという痕跡を手下が見つけていたため誰もが慎重にならざるを得ず、ソノラ救出おろか探索まで難渋することは間違いなかった。
 男が来るまでの間、ソノラは窓から外を眺めていることにした。海しか見えないため退屈なことには変わりない。ただ、机の木目より海の波を見ているほうがソノラの性に合ていただけのことだった。
 しばらくするとドアの開く音がした。鍵が開く音はしなかった。ソノラは試しに逃げ出せたことを悔やみながら振り返ると、そこには太った男が立っていた。ほんの少し息が荒い。
 ソノラが男を訝しげに睨みつけていると、男は変なことを口走り始めた。
「ここはろくな鍵もないし、捕虜を捕まえておかないなんて、おかしな話だ。もっとちゃんとしたところに移動するから、俺の言うことに従え」
「あたしは逃げ出さないよ。鍵が開いてたのにずっとここにいたんだもん」
「そんなのわからないじゃないか。今は逃げ出さないと言っても、後で逃げ出すかも知れないだろ?」
「ここか部屋の外で見張ってれば逃げ出せないよ」
「窓から飛び出して逃げるかもしれないだろ」
「はあ? ここから飛び降りたら鉄でも粉々になるよ。逃げ出せるわけないに決まってる」
「せ、設備だって悪いぞ。縄かなんかで縛りつけとかないと逃げてしまう」
「どっかから縄でもなんでも取ってくれば?」
 ソノラの表情は男が狼狽するほど侮蔑の表情に変わっていった。何かしら思惑があってどこかへ誘導しようと持ちかけているのは一目瞭然だった。
「お、お頭の命令だから、従わないといけないんだぞ」
 男の声が裏返った。
「そんなこと入ってきたときに言えばいいのに、何で今更言うの?」
「うるさいな!」
 突然、男はソノラに向かって突進してきた。男とソノラとの間には机があったものの、男はそんなことお構いなしで机の縁を掴み、そのまま突進した。
 あまりにも唐突だったがソノラは焼けた鉄板に触れるかの如く飛んだ。しかし、男が押す机のほうが早く、足首を引っ掛けてそのまま机にうつ伏せで倒れこんでしまった。
 まずいと思った瞬間に机は壁に到達。ソノラの足は壁に挟まれてしまった。
「痛っ!」
 男はすかさずソノラの片方の手首を両手で強く掴み、半ば引きずりだすように強く引っ張り机から地面に落とした。
「痛い! 痛い! 放してよ!」
「うるさい! 早く立て!」
 男はソノラを釣り上げるように持ち上げてソノラを立たせ、ソノラの腕を捻るようにして背中に回した。ソノラはやや前のめりになった。ソノラは悲鳴を上げながら掴まれていないほうの手で男の体を殴ろうとしたが宙を掻くだけで意味がなかった。
「早くしろ!」
 男はそう言ってソノラを小突くと無理やり部屋の外へと連れ出した。
 
 幸い、靴のおかげでつま先は骨折には至らなかったが強く打撲した。飛んだときに引っ掛けた足首も同じく強く打撲した。立てないほどではないが痛みで歩くのに難が生じた。
 そのままソノラは男に押されながらくねくねと地下道を歩いていった。


つづく

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