Happy date time 1



「ハッ……」
 軽く息を吐きながらライは鏡を見る。袖を通した衣服。普段の面影亭の制服ではない。
 滅多に着ることのないカジュアルなよそ行きの服装。それを見回してもう一度息を吐く。
(まあ、こんなもんだろう……)
 仕事一筋の多忙な毎日を送る身の上。粋な着こなし等はそうは身につくものではない。
 自分で見る限りではそうみっともないということもないだろう。適当なところで妥協する。
 服装に凝って約束の時間に遅れては本末転倒だから。
「行くか……そろそろ……」
 一通りの身だしなみを整えてライは部屋を後にする。待ち合わせの場所は水道橋公園。
 天気は晴れ。空の色は澄んだ青。本日は絶好のデート日和であった。



「あんたっていつも休みの日でも店で仕事ばかりよねえ」
 きっかけは先日、いつものように手伝いに来てくれたリシェルのそんな一言だった。
「しょうがねえだろ。定休日たってその日の内に準備しなきゃならねえことが山ほどあるんだから」
 溜息混じりにライはぼやく。基本、自分ひとりでの宿屋営業。食材のチェック。帳簿の記載。
 調理場の清掃。新メニューの研究。その他エトセトラ。諸々の業務がライには圧し掛かる。
 やれるだけのことを休みの日の内にこなさなければそれこそ毎日の営業は地獄となる。
 これが自営業の厳しさというもの。
「そりゃ、そうなんだろうけどさあ」
 ライの大変さはリシェルも理解している。だからこそこうして暇を見ては手伝いに来ているのだ。
 それでも少し働きすぎではないかとリシェルは思う。もう少し、自分の時間を大切にしていいのではないかと。
「息抜きよ!息抜き!あんた、少しは息抜きしなさいよ。若者にはねリフレッシュが欠かせないものなのよ」
「そうは言うけどなあ……」
 息抜きが大切。そんなことは分かりきっているのだがその余裕がない。 


「だーかーらー。余裕がないないならつくればいいじゃない。よし、決めた!明日からしばらくあたし、ポムニットと二人で毎日手伝いに来て上げる。それならあんたも少しは余裕できるでしょ」
「おいおい、勝手に決めるなよ……そんなこと……」
 人手が増える。嬉しいことなのだがライは躊躇う。リシェルやポムニットにあまり迷惑をかけたくない。
 ただでさえいつも、彼女達の好意に甘えて手伝って貰っているというのに。 
「いーのよ。そんなの!このあたしがそう言ってるんだからいいに決まってるでしょ! あんたはいちいちつまんないこと気にしなくていーから人の好意は黙ってありがたく受けなさいよ」
「…………………………………………………………」
 リシェルが一度こうなったら後はもう、引き下がることはない。長いつきあいだからライにはよく分かる。
「その代わり、次の休日はちゃんと一日開けること!いいわね!」
 ずびっと指差してリシェルは言い放つ。無論、ライに拒否権はあるはずがなくて。
(まったく……こいつは……)
 ありがたいのやら。ありがた迷惑なのやら。それでもやっぱり内心は嬉しかった。
 これだけ自分を気遣ってくれる。そんな優しい彼女に恵まれて。
(ありがとうな……リシェル……)
 軽く微笑みながらリシェルを見る。声には出さなくても視線で分かったようだ。リシェルの顔がポッと赤くなる。
「な、なによ。あたしは別に……単にあんたのことが心配なだけで……それに……あたしにも無関係な話じゃないし……」
 赤く染まった頬でモジモジと口ごもったようにリシェルは呟く。その仕草がなんともいじましい。
「って!?な、なに言わせんのよっ!馬鹿っ!別にそんなんじゃないんだからねっ!」
 そしていつもの照れ隠し。これでこそリシェル。絶妙なまでのツンとデレのバランスがライには心地よい。
 わたわたと慌てふためくリシェルを適当にあやしながらライは綻んでいた。ひとりごちる。なんというこの幸せ。
「そういうわけだから次の休みは一日、あたしに付き合うこと。いいわね」
 そしてまた勝手に予定を決めてくるリシェル。すかさずライは突っ込みを入れる。。
「デートか?」
「っ!!!」
 ものの見事に図星。顔色を窺うまでもない。プルプルと顔を強張らせるリシェル。そして飛び出すいつもの叫び声。
「うっさい!うっさい!うっさ――――いっ!!!つべこべ言うなあ!別にそんなつもりじゃないんだからねっ!!!」
 とことんなまでにテンプレどおりの反応を見せるリシェル。そんなリシェルに苦笑しながらライは噛締めた。
 こんなリシェルと毎日を過ごせる。そのなによりも掛け替えのない幸福を。





(とはいえ……デート以外のなにものでもないよな……これは……)
 ため池の脇を歩きながらライはひとりごちる。待ち合わせの場所まではもうすぐ。デート。
 思えばリシェルときちんとしたデートをするのはこれが初めてかもしれない。
(色々と忙しかったからなあ……オレも……あいつも……) 
 お互いに忙しくて二人きりの時間が思うようにはとれない。分かってはいる事だが寂しいことではあった。
 それでたまにそういう時間に恵まれたときも、主にどのようにして過ごすかというと。
(…………………………………………………)
 デートとかその他諸々を一気に飛び越えて、即物的なことをやりたい放題にやってしまう。それこそ一晩中はしっぽりと。
 それでいいのか15歳。なんだか思い返すだけで恥ずかしくなってしまう。穴があったら入りたい。
(本当に……どうしようもなさすぎるぞ……オレ……)
 ガクッと肩を落としてライは頭を垂れる。しっかりしろよオレ。そう自分に言い聞かせて頭を持ち上げる。
 待ち合わせ場所の時計台はすぐ傍にあった。
「あ――っ!もうっ!遅いっ!何分待ったと思ってんのよっ!」
 たどり着くと既に待ち人はそこにいた。プリプリとした声を響かせて。
「ああ、悪い悪い……っていうかまだ十分前だぞ。リシェル」
 時計台の針を見上げながらライは言う。けれど返ってくる答えはこれまた予想通りで。
「甘い!このあたしを待たせてる時点で言語道断なのよ!罰として今日はあんたの奢り決定!」
「わかった……わかった……」
 本当に予想通りの返答にライは適当に相槌を打ち心の中で呟く。
(まっ、最初からそうするつもりだったけどな……)
 愛する彼女とのデート代ぐらいは自分の財布から出す。そのぐらいの意地はライにもある。
(それに……今日はおまえのおかげだからな……リシェル……)
 胸の中で呟きながらライはリシェルを見る。この数日、リシェルは本当によく働いてくれた。 
 自分とデートする時間をつくるために。だから報いなくてはいけない。一途に自分を思ってくれるリシェルに。



「なによ……人の顔ジロジロと見つめて……」
「んっ……あ……いや……」
 気がつくとライは見惚れていた。今日のデートのためにおめかしをしたリシェルの姿に。清楚な白地のブラウス。
 下は珍しく黒のスカートを穿いている。服装に合わせてかいつものウサギの帽子は被っていない。
 長い亜麻色の髪とその分け目から見える広めのおでこがチャーミングで印象的。いかにもお嬢様な装い。
 こうして着飾って見るとなんとやら。
「お前も一応、お嬢様なんだよなあ……」
「どういう意味よっ!!」
 しみじみと呟くライにリシェルはむくれる。適当にあやしながらライは心から思う。マジで可愛い。可愛すぎる。
 三国一の果報者だぞオレ。幸せすぎてポックリ逝ってしまわないかオレと。そんなライの胸をムキーっとなってポクポクと叩くリシェル。傍から見ればその姿はもうバカップル以外のなにものでもない。
「んじゃ、そろそろ行くか。ん?どうした。リシェル」
 じゃれ合いも程ほどに今日の予定へと繰り出す頃合。ふいにリシェルは視線を伏せる。ライは声をかける。
 するとライの手元を見つめながらリシェルはポソリと呟く。
「手…………」
「っ?」
 一瞬、その意味を捉えかねてライは戸惑う。けれどすぐに気づく。恋人同士のデート。
 それで手とくれば思いつくことは一つしかない。
「あ、ああ……」
 気がついてライは自分の手を差し出す。少し照れくさかった。なんだかこそばゆい感じがして。
 リシェルと手と手を繋いで街を練り歩く。いかにも恋人同士という感じがする。差し出した自分の手。
 その手をリシェルがとるのをライは期待した。が、返ってきたのは期待以上のものだった。
「……っ…………んっ!」
「うぉっ!」
 ギュムッ リシェルはライの手ではなく腕をとる。しがみつくようにギュッと二の腕に組み付いて。
「おまえ……」
「……なによ……文句ある?」
 苦笑するライに照れ隠した顔でリシェルは言う。文句などあろうはずもない。むしろ大歓迎だった。
 周囲から突き刺さる好奇の視線はとりあえず気にしないことにしよう。
「いや……じゃあ、行くぞ。リシェル」
「しっかり……エスコートしなさいよね……」
 かくてバカップル二人はデートへと繰り出す。人通りの多い街中を腕を組みながら仲睦まじく練り歩いて。





「ん―――っ♪美味し――い♪」
 辿りついたのは繁華街のとある喫茶店だった。そこで行われているケーキバイキング。
 口いっぱいにケーキを頬張りながらリシェルは幸福に浸る。パクパク。ムシャムシャ。
 本当によく食べる。この雌ウサギは。
「おまえなあ……程ほどにしとかないと太るぞ」
「なーに言ってんのよ。昔から言うじゃない。甘いものは別腹って。そういうあんたも食べなさいよ。バイキングなんだから食べなきゃまるっきり損じゃない。よーしっ。元をとるぞ。さあ、次々♪」
 そう言ってリシェルは次のケーキを取りに席を立つ。ここのケーキの味がよほどお気に召したようだ。
 実に美味しそうな顔でひょいぱく食べる。
(こんぐらいのヤツならいつでも作ってやれるのになあ……)
 皿の上のケーキをつつきながらライはしみじみと思う。職業病というやつだろうか。
 賞味しただけであらかたのレシピは頭に浮かぶ。これと同じものを、あるいはもっと美味しいケーキを作ってやればリシェルは喜んでくれるだろうか。自分が作ったケーキを美味しそうに頬張るリシェル。
 想像しただけでなんかこう。
(なに考えてんだ……オレ……)
 たかだかバイキングのケーキ。それにさえ嫉妬している自分にライは気づく。本当にどうしようもなかった。
 リシェルの笑顔。リシェルの優しさ。リシェルの好意。独り占めにしたいと考えている自分が確かにいた。
 それほどまでに埋め尽くされている。頭の中がリシェルでいっぱいに。 
「ほらっ。取ってきたわよ。新作ケーキ全種制覇♪」
 ドカッ 山盛りのケーキ皿をもってリシェルは戻ってくる。山積みにされた甘味の数々。流石に胸焼けしそう。
「おまえ……それ一人で食うつもりか?」
「なーに言ってんのよ。あんたも手伝うに決まってんじゃない。来たからには色んな種類食べたいし」
「……ったく、しゃあねえなあ……」 
「はい。ほら、アーんして♪アーん♪」
「…………………………………………」
 そう言ってケーキをフォークに突き刺してリシェルは差し出す。バカップルにも程があるとは思いつつも
 ライは言われるままにお口をアーんと開ける。そこに放り込まれるケーキ。パクパクムシャムシャ。うん美味い。
 ヒソヒソヒソヒソ。周囲から聞こえる声。『ほら、またブロンクスさんとこの娘さんと街外れの宿屋の子よ』『この間も二人で仲良くお買い物してたわよね。ヒソヒソ……』『本当にお熱いことでヒソヒソ……』
 聞かなかったことにしよう。聞こえない。ああ、なにも聞こえない。
「ほら、今度はお前の番だぞ。アーん」
「アーん……パクッ……ん――っ♪美味しい―――っ♪はい。じゃあ、またあんたに……アーん♪」
「アーん……モグモグ……結構美味いな……これ……ほれ……アーん」
 心頭滅却すれば火もまた涼しい。生温かなギャラリーのみなさんも尻目にライとリシェルはいちゃつく。
 本当にごちそうさまとしか言いようがない。




「ふぁぁぁぁ。食べた食べた。幸せ幸せ。えへへっ♪」
「……っぷ……流石に胸焼けするぞ……コレ……」
 一通りのケーキを平らげて満腹感に二人は浸る。満腹すぎるのがちょっと苦しいけれど。
「なによ。だらしないわねえ。なにか飲み物でも飲む?」
「そうだな……なんでもいいから適当に注文してくれよ」
 ライにそう言われてリシェルはメニューのドリンク欄に目を通す。するとその中にひときわ目を引くものがあった。
 『カップル限定特別メニュー 胸のトキメキ』 ピキーンと閃くものをリシェルは感じた。
「すみませーん。このっ『胸のトキメキ』てやつ一つください」
「はい。かしこまりました」
 そしてすかさず注文。限定とか特別とかいう言葉に乙女は弱いものなのである。
「なんだよ。その……『胸のトキメキ』て……」
「んー……よく知らない。でも頼んじゃった。なんか面白そうじゃない」
 後先考えずに注文するリシェルにライはハアと溜息を吐く。まあ、この際、飲み物ならばなんでもいい。
 よほど不味くて飲めない代物でもない限りは。
「どうぞ。こちらが『胸のトキメキ』になります」
 注文から間もなくウェイトレスは件のブツを持ってきた。ゴトリとテーブルに置かれる。
「なっ…………」
「うわぁ…………」
 テーブル上のそれ。その出で立ちに二人は揃って絶句した。ハート型のデザインの大きなガラス製の器。
 そこに並々と注がれたジュースとその上のフロートするアイスクリーム。備え付けのストローが二本。
 カップル限定。特別メニュー。つまりはそういう代物である。
「………………………………………………………」
「………………………………………………………」
 そのあまりのインパクトに先程まで糖度警戒宣言発令もののイチャツキをしていた二人も意識を引き戻される。
 これを飲む。ストローでチューチュー二人一緒に。それも公衆の面前で。これは流石に恥ずかしい。
 あんだけイチャイチャしときながらなにを今更かとも思うが、その今更ながらの羞恥心にさいなまれる。


「……で……どうすんだ?コレ…………」
 いたたまれない沈黙をライは先に破る。
「どうするって……飲むに決まってるじゃない!注文しちゃったんだから勿体ないでしょ」
 リシェルはヤケクソだった。顔がヒクヒクとひくついている。なんか今までの糖分が一気に脳に達したみたいだった。
 悶絶しそうなまでの恥じらしさ。穴があればというより今すぐ掘って埋まりたい。とりあえずドリトル辺りで。
「待て待てっ!早まるなっ!落ち着け!頼むから少しは落ち着けっ!」
 危うくサモナイト石を取り出したリシェルをライは必至に落ち着かせる。ハッと我に返るリシェル。
 何度か息を吸っては吐いて、そして顔を赤くプルプルとふるわせる。
(ああ、恥ずかしがってる。はずかしがってる……)
 リシェルの羞恥の様子を見つめながらライもまた堪えていた。先程まで無視していたギャラリーのみなさんの視線。
 いやあ、生温かい。実に生温かい。ニヤニヤ。うわあ、むず痒い。 
「っ……べ、別にこんなのだって知ってたとかそういうんじゃないんだからねっ!偶然なんだからねっ!事故よっ!事故っ!」
「あんまり強調するなよ……余計にはずい……」
 照れ隠しにひた走るリシェル。ライは頭をかかえる。やれやれ。どうやらここいらで助け舟が必要なようだ。
 本当に困ったお嬢様だ。こいつは。
(後で覚えてろよ……)
 ボソリと心の中で呟きながらライは備え付けのストローに口をつける。チュッと一口ジュースを啜ってから声をかける。
「飲むんだろ?おまえも……」
「っ!?」
 我ながらキザ臭いなあとライはしみじみ思った。しかしリシェルには効果てき面だったようだ。
「当たり前じゃないっ!」
 そう言ってリシェルももう片方のストローに口をつける。チューチュー。一杯のジュースを二人で一緒に飲む。
(本当はこういうの……一度やってみたかったんだろうなあ……)
 赤く染まる頬でジュースをチューチュー啜り続けるリシェルを見つめてライはそう思った。恋人同士が通り過ぎる一連の通過儀礼。いろいろと一足飛びでかっ飛ばして行き着くところまで行ってしまったその分の埋め合わせ。
 ずっとしたかったに違いない。それはライも同じ気持ちだから。
(ほんと可愛すぎるぞ……おまえ……リシェル……)
 優しくリシェルを見つめながらライの頬もすっかりピンクに染まっていた。ハートの器に並々と注がれたジュース。
 それを啜りあう二本のストロー。口に入る甘い液汁。それが何故か蕩けるように甘くお互いの心が流れ込んでいる。
 ライもリシェルも二人ともそのように感じるのだった。





「すっかり日も暮れてきたな」
「うん……」
 夕暮れ時、一日の終わりを告げる西日を見つめて二人はブロンクス邸の前まで来ていた。あれからも二人でデートを楽しんだ。
 商店街でのショッピング。やったら高価なアクセサリーを強請るリシェルに『そんな金あるか!』と一悶着もあったが、ようするに痴話喧嘩。いちゃつく為の出来レース。すぐに仲直りして街中をぐるっと一周。一緒に通ったセクターの私塾。
 遊び場だったミントの家。思い出のたくさんつまったトレイユの町を堪能した。町の外にも出かけた。星見の丘。
 二人にとってかけがえのない思い出の場所。草原に寝そべりながら二人で同じ空を眺めた。見上げた空はとても穏やかで自惚れにもまるで自分達を祝福してくれているようにも思えた。そうして丘を後にして戻ってくるとこんな時間になっていた。
 楽しかったデートもこれでお終い。その終わりが少し名残惜しい。
「あ、あのさあ……ねえ、ライ……」
 別れ際にリシェルは声をかける。モジモジと指を組みながらチラチラとライを見つめてリシェルは言う。
「今日……本当に……楽しかった?」
 少し不安そうにリシェルは尋ねる。怪訝そうにライがその顔を窺うとそのまま続けて言う。
「あんたの息抜きのためって言ってたのに……結局、あたし……自分のしたいようにしちゃったからさ……あんたにちゃんと楽しんでもらえたかな……本当は迷惑じゃなかったかなって色々と不安になっちゃって……」
「…………………………………………」
 楽しかったに決まってる。大好きなリシェルと一緒の時間を過ごせたのだから。そんなことはリシェルも分かっている。
 でも、ちゃんとライの口から言って欲しいのだ。このどうしようもなく甘えん坊で寂しがり屋なウサギ娘は。
「いたっ!…………ちょっと、いきなりなにすんのよっ!!」
 ふいにライは指先でリシェルのおでこを弾く。デコピン。やられたリシェルは剥れだしライはぷっと笑う。
「はははは。ばーか」
「馬鹿ってなによっ!ちょっと!!……って………っ!??」
 掴みかかろうとしたリシェルの身体。それをギュッと抱きしめるライの腕。優しい抱擁。それはどんな言葉よりも雄弁で。
「わかるだろ……いちいち声に出して言わなくても……」
「うん……」
 トクントクン。伝わる心音はなによりも正直だった。ドキドキドキ。あは。ときめいている。キュンキュン。
 胸がキュッとなる。ちょっとこそばゆくて、だけどすごく心地よい。肌が触れ合うことで感じる心の温もり。
 夕日に照らされて抱き合う二人はそのまどろみに落ちる。願わくばこのまま。もう少しだけ感じていたい。
「ねえ…………」
 まどろみの中でリシェルは耳元で呟く。その続きの言葉をライをじっと待った。
「今からウチに寄ってきなさいよ。今日は一日ずっと付き合うって約束でしょ……」
「ああ、そうだったな……」
 例え日が沈んでも二人の一日は終わらない。次の朝日が空に昇るまで。本日のデート。ここからはその延長戦。
 そうして日が沈みきる前に二人は屋敷の中へと入っていくのだった。

つづく

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