二本の一方通行路(中編) 2



「――ホントにいいの?後悔しない?」
 彼のベッドに横たわり、ソノラは何度もうなずく。布団の中でもぞもぞと服を脱ぐソノラの横で、スカーレルはベッドに腰掛けながらシャツのボタンを外す。するりと肩からシャツが滑り落ちると、色の白い、しなやかな筋肉のついた背中が姿を現した。
 体は交えたが、彼の裸を見るのはこれが初めてだ。予想以上に綺麗な肌に、ソノラは思わず顔を赤らめる。ハッとして自分の肌をベッドに置かれていた鏡で見てみると、日焼けなどを気にしていないせいか、その肌はやや黒かった。
「ソノラも美容には気を遣いなさいな」
 彼女の考えを読み取ったのか、スカーレルはくすくすと笑いながら掛け布団をめくり、ソノラの隣りへと寝そべる。
「まだ若いんだから、これからいくらでも綺麗になれるわよ」
 うつ伏せのソノラを背後から抱きしめ、耳元で囁く。
「……うん……」
 緊張しているのか、ソノラは抱きしめられたまま動こうとしない。スカーレルは手を下腹部から上に向けてゆっくりと滑らせると、彼女の少し小さい乳房を優しく包み込んだ。反射的にソノラの体が強張る。
「もっとリラックスして」
 人差し指と親指でわずかに顔の出た乳首をつまみ、こねるように動かす。ソノラの吐く甘い息と同時に、刺激を与えられた乳首はすぐにツンと立ち上がった。
「ん……もっと……」
 背後から攻められるのでは物足りない。ソノラはスカーレルの腕をほどくと、彼の正面へ向き直る。
 スカーレルはソノラの上へまたがると、彼女の胸を両手で押し上げ、突き出た乳首を舌先で軽く触れる程度に舐めた。
「は……っ」
 震える吐息で、ソノラは愛撫を受け入れる。身をわずかによじり、動かした足がシーツを乱す。
「ソノラの弱点って、やっぱりここみたいね?」
 指先で乳首を押しながら、楽しげに問うスカーレル。ソノラは頬を染めながら首を横に振る。
「べ、別にそこが一番弱いってワケじゃ……」
「あら、それじゃあもっとアタシに可愛がって欲しい所があるの?」
 ソノラは敏感だという事を否定するつもりだったが、これでは逆に更なる愛撫を誘っているようなものだった。しまったというように黙りこむ彼女をからかうように、スカーレルが続ける。
「どこ?言ってごらんなさいよ。してあげるから」
 するり、とスカーレルの手が優しくソノラの太ももの内側を滑る。その動きにソノラの足がわずかに反応する。
 太ももの付け根の所まで進めると、そこで少し指を這わせ、彼女の期待を裏切るように手を放した。
「あ……スカーレル、そこ……」
「どこ?」
「い、今の」
「今のって、太もも?」
 わざと見当違いな事を言い、スカーレルはソノラを煽る。もどかしさと恥ずかしさで眉を歪めるソノラ。
 仕方なくスカーレルの手を掴むと、その指先を自分の足の間へと持っていく。彼の指先に、ソノラのクリトリスが触れた。
「……ここ……」
 これ以上ないというような羞恥心に頬を染め、小さな声でつぶやく。スカーレルは満足気に笑むと、ソノラのひざ裏を掴み、ぐいと左右へ押し広げた。
「了解、たっぷり可愛がってあげるわ」
 言うなりスカーレルは舌を出し、ソノラの股へと顔をうずめる。湿った生温かい舌がゆっくりとクリトリスを舐め、唇でしゃぶるように吸い上げる。
「あッ……!」
 久々に与えられる他人からの快楽に、ソノラの背筋がビクンとのけぞった。自分の指の愛撫では比べものにならない刺激が全身を走る。
「……ご期待に添えてるかしら」
 滲み出る愛液を指ですくい、それを舐めとりながらスカーレルが尋ねる。
 ソノラは呼吸で胸元を膨らませながら、さらに指で自分の股を指す。
「あ、赤ちゃん作るトコも、触って……。ちゃんと慣らしといてくれないと、スカーレルのが入った時、痛いから……」
 とろけるような快楽に流され、ソノラは羞恥心を忘れたように次の愛撫をねだる。
 スカーレルは愛液の溢れる秘部に指を滑らせると、ゆっくりと長い指を膣内へとうずめていった。
「んくッ……ふッ……!」
 膣肉が彼の指を締め付ける。予想よりもすんなりと受け入れたため、スカーレルはいったんそれを引き抜くと、今度は指を二本そろえて挿入してみる。膣はそれもゆっくりと飲み込んでいくが、ソノラ自身はわずかな痛みに目を細めた。
 だが、その間もクリトリスが彼の舌によって愛撫を続けられていたため、秘部からは絶え間なく愛液が滲み出る。それが潤滑油となって指を更なる奥へと導いていった。

「さて、そろそろアタシにも楽しませてもらっていいかしら……?」
 口元の愛液を手の甲で拭いながら、スカーレルが身を起こす。開かれたソノラの中心からは挿入するには充分な愛液が溢れ、シーツに伝って零れ落ちていた。
 自分の腰を浮かせると、スカーレルは熱を帯び、頭を持ち上げたペニスに手を添える。
「あっ……」
 さっき見たときよりも明らかに大きさを増しているそれに、ソノラは息を呑んだ。
 その目にわずかな怯えの色が走る。前の時は彼の体にほとんど視線を向けていなかったため、勃起状態にあるその姿もちらりとしか目にしていなかったのだ。
 あの時も大きいとは思っていたが。間近でそれを目にし、ソノラはシーツを掴むと少しだけあとずさった。
「そんなに怖がらなくても大丈夫よ。初めての時もちゃんと奥まで入ったんだし」
 ソノラの上に覆い被さり、スカーレルは彼女の両足を抱え上げる。彼の指によって充分にほぐされたそこに、膨らんだ亀頭を押し当てた。
「――――……!」
 ソノラはふいに、かつての破瓜の痛みを思い出す。
 体を裂かれるような感覚。今まで忘れていたが、あの時自分はあまりの痛さに涙まで流していたのだ。
「あ、あの、スカーレルッ……」
 ぎゅ、と彼の腕を掴む。その手は震えている。ソノラの様子に、スカーレルは困ったように眉をひそめた。
「そんなに怖いなら……やっぱりやめる?」
 そう言うと、秘部に触れていた亀頭が離れていく。だがソノラは首を振り、彼の背中にそっとしがみついた。
「ち、違うよ。ただ……なるべく痛くないようにしてほしいだけ……」

「……う……、んぅッ……!」
 初めて抱いた事自体がずいぶんと前であったため、収縮したソノラの膣はスカーレルを受け入れる事を困難としていた。
 初めての時のように強引に貫けば入れることなどた易いが、ソノラに頼まれた以上、乱暴にするわけにはいかない。何とか亀頭を挿入すると、腰を支えてそのままゆっくりと膣内へとうずめていく。
「はぁッ、はぁ……」
 力を入れないように、呼吸を繰り返しながらソノラはスカーレルを受け入れていく。
 何度か途中で挿入を止め、痛みに慣らせながらようやく最奥まで貫くと、スカーレルは彼女の腰を持ち直し、その顔を覗き込んだ。
 挿入されている間に比べれば、完全に膣内に入ってしまっているほうが幾らか痛みは和らいでいる。
 ソノラはスカーレルの肩に指を食い込ませ、赤らんだ頬で静かに呼吸を整えた。
「……動かすけど、もう大丈夫?」
「う、うん……」
 ソノラの返事を合図に、スカーレルは自身をゆっくりと引き抜こうと腰を引く。
 ――その時。
 ゴッ、ゴッ……。
 叩くというより殴るというような、無遠慮なノック。
 その主が誰かは、考えずとも分かった。

「おい、スカーレル!いるかぁ?」

 夜中だというのに大きな声。
「……カイル……」
 口の端を引きつらせながら、スカーレルがつぶやく。ソノラは予想外の状況に硬直している。
「いや、あのさ。さっきの事で先生から怒られちまってよ。ソノラに謝ろうと思ったんだが、部屋にいなくてな……」
 ドアの向こうから聞こえるカイルの声は、わずかに沈んでいる。尻に引かれている様子が目に浮かび、スカーレルは重々しく息を吐いた。
「……ソノラの事だったら、あとで話すわ。時間かかると思うから、船長室で待ってて」
「おう、頼んだぜ」
 まさかドアの向こうでスカーレルがその少女を抱いているとは夢にも思っていないだろう。
 遠くに去っていく足音を耳にしながら、スカーレルは視線をソノラに向ける。
 ソノラは顔を真っ赤に染め、困惑した面持ちで目を伏せていた。本命の男のすぐそばで他の男に抱かれているという状況。事情を知らない者がその状況を聞けば、大抵は彼女をみだらな女だとののしるだろう。
 ソノラもきっと否定はしない。
 カイルのことを少しでも頭の中から遠ざけたくて、そしてスカーレルの優しさに甘えたくて、ソノラはスカーレルに再び抱かれた。
 だが……。
「……ご、ごめん。スカーレル……。ここまでしといて何だけど、やっぱり……」
 申し訳なさそうにうずくまり、ソノラはシーツにくるまっていた。
 スカーレルの下半身は時間をおいてようやくおさまり、内側に込み上げる性欲も何とか抑える事ができた。
「ごめんね……。あたしの方から誘っておいて」
「まあ……仕方ないわよ。カイルの声がコトの最中に聞こえちゃあね」
 そう言うなりスカーレルはベッドの横に置いた机の引出しから小さな物を取り出す。
 その中から何かを取り出すと、それを口に咥え、マッチを擦った。
 薄暗い部屋の中に、小さな明かりが灯る。
「……意外、スカーレルって煙草吸うんだ」
「アタシだって煙草くらい吸いたい時もあるわよ」
「それって、どんな時?」
「……こんな時よ」
 眉をしかめながら煙を吸い、ふう、と暗闇に向けて吹く。
 その表情の意味をソノラは理解できず、天井に向かって溶けていく白い煙を眺めながら、それじゃ分かんないよと唇を尖らせた。
 ぐりぐりと灰皿に煙草を押し付けると、スカーレルはベッドから起き上がる。脱ぎ捨てた服を身にまといながら、ソノラに視線を向けた。
「お風呂入ってくる。そのあとにちょっとカイルの所に行ってくるわね。ソノラもあとで汗を流してらっしゃいな」
「え?それならあたしも一緒に――」
「ダ〜メ。男同士の密談だから」
 人差し指をソノラの前に突きつけ、スカーレルは軽くウインクする。そして残りの煙草をポケットに押し込むと、そのまま部屋をあとにしていった。
「スカーレル……」


 コンコンと上品なノックが響く。
「おまたせ、来たわよ」
「おう。まあ入ってくれ」
 カイルの声にスカーレルはドアを開ける。
 そこには、ばつの悪そうな顔で苦笑するカイルが座っていた。
 スカーレルが向かい合わせにソファーに座ると、カイルはくしゃくしゃと髪をかきながらうな垂れる。
「実は……ソノラの事な、全部先生から聞いちまったんだ。アイツが俺の事を好きだったって……」
「そう、センセがね……」
 アティに怒られたのが原因か、ソノラが自分に想いを寄せていた事が原因か、カイルはテーブルに置いていたウイスキーを一気にあおる。
「ホント酒好きね、カイルって」
 呆れたように言いながらも、スカーレルは空になったカイルのグラスに残りのウイスキーを注いでいく。
 ストレートの濃い色が部屋の明かりに揺らめくそれを、スカーレルは喉に流し込んだ。
 スカーレルの飲む姿に、意外だというようにあっけにとられながらも、カイルは口を開く。
「お前があの時、俺に水をぶっかけてきたのは……ソノラの気持ちを知ってたからだったんだな。だがよ……それならアイツが俺にキスした時に、何で罰ゲームだなんてウソついたんだ?」
「……アンタ、それが本気で分からないの?」
 足を組み、スカーレルは鋭い目つきでカイルを見据える。だがカイルは眉をしかめながら重々しく頷いた。
 瞬間、スカーレルのこめかみがわずかに動く。
「……カイル。煙草、吸ってもいいかしら」
「――え……!?」
 ゴソゴソとポケットをあさる彼の仕草に、カイルの顔が強張った。煙草を取り出し、口に咥えるさまを見て、カイルは慌てて彼に飛びつく。
「お、おい!煙草は体によくないぜ!?お、落ち着けってスカーレ……」
「黙りなさい。アタシが吸いたいのよ」
 彼の鋭い眼光に気圧され、カイルは仕方なく黙り込んでソファーに体を戻す。
 スカーレルはマッチで煙草に火を灯すと、マッチをグラスの中に落とした。いつものカイルなら、愛用のグラスにそんな事をされては当然激怒していただろう。
 だが、今の彼を相手にそのような事は口が裂けても言えなかった。
 スカーレルは煙を胸一杯に吸い込むと、それをそのまま前方へ向けて吐き出す。目の前のカイルは目を閉じて咳き込むが、スカーレルは一言も謝らない。
 ……スカーレルが煙草を口にする瞬間。
 カイルにとって、難破寸前の大嵐の次に恐れるものがそれであった。
「カイル?アタシが煙草を吸う時がどんな時だか分かってるわよね?」
「……ああ……」
 トントンと先端の灰をグラスに落としながら、スカーレルは舌打ちする。
 彼が煙草を吸う状況。それは彼が、怒りをその身に浸透させる時だ。
 苦い煙草を味わい、その不快感であえて怒りを極限まで引き上げる。性格上あまり感情的になることのないスカーレルが心の底から怒りを感じた時に行う行動であった。
「……アタシ、本当は煙草なんて嫌いなのよ。でもね……心底アタマにキた時は、こうでもしなきゃやってらんないの」
 スカーレルは足を組みなおし、カイルに向けて身を乗り出す。
「アタシがアンタとセンセの関係を知ってる以上、あの子の気持ちをアンタに知らせて、二人の関係をぎくしゃくさせるような事はしたくなかったのよ。まして、あの子はアンタに強引に唇を奪われたあとだったんだしねっ……」
 スカーレルの声が、唇が震えている。
「し、しかたねぇだろっ?アレは寝ぼけてた俺に、ソノラがキスなんかするからだなあ」
「アンタは唇が触れてりゃ相手は全てセンセだと思うの!?もしアタシがキスしてたとしても、アンタはアタシを押し倒してディープキスかましたあげくにカマ掘りでもいたすワケ!? ふざけんじゃないわよ!入れる前に穴の場所が違うって事ぐらい気づきなさいよ!!」
「ま、間違えた事があるのか俺!?」
「あるわけないでしょうが!あったらとっくにハッ倒してるわよ!!」
 肩で息を繰り返し、スカーレルは無意識に立ち上がっていた腰を再びソファーに下ろす。
 不機嫌をあらわにするスカーレルを見ながら、カイルは先ほどから心の中に引っ掛けているものがあった。
 今スカーレルとこうやって会話をしている原因。
 ソノラ本人の存在だ。
「なあ……ところで、肝心のソノラはどこにいるんだ?連れてきてくれんのかと思えば、来たのはお前一人だしよ」
「……」
 スカーレルは途端に口を閉ざし、咥えていた煙草を指に絡める。
「あの子なら、アタシの部屋にいるわよ。もしかしたら今はお風呂に入ってるかもしれないけどね」
「なんだ、お前の部屋にいたのかよ……。じゃあ何であの時、中に入れてくれなかったんだよ」
 いらついたようにカイルは尋ねる。気の短い彼は、揉め事などのいざこざを早く解決させたいのだろう。
 それがソノラに対して早く詫びを入れたいと考えての事なのか、面倒事はさっさと消してしまいたいと思う気持ちからきたものなのかは分からない。少なくとも前者であってほしいとスカーレルは思いながら、再び煙草を口に含んだ。
 わずかに上向き、溜め息とともに煙を吐く。
「できるわけないじゃない。だってあの子、その時は裸だったんだし」
「……え?」
 一瞬口を開けたまま、カイルの動きが止まる。しかしすぐに何かにひらめいたように手を打つと、苦笑を浮かべた。
「さてはアイツに酒を飲ませやがったな?アイツは酔っ払うとメチャクチャをしでかすからなぁ」
「セックスしてたのよ。アタシと」
「…………」
 笑顔のまま、カイツの表情が硬直する。
「おい、お前今……何つった?変な冗談はよせよ」
 わずかに口の端を引きつらせたカイルは、無意識に身を乗り出し、スカーレルを見下ろす。
 だがスカーレルもソファーに腰掛けたまま、そんな彼を上目遣いに睨み答える。
「こんな状況でアタシがつまんないウソをつくと思う?アンタじゃあるまいし」
「なッ……」
 言いかけたカイルの眼前に、スカーレルは片手を突き出した。そのままカイルの唇を軽く押す。
「ウソなんかじゃないわよ。何ならこの指、舐めてごらんなさいな。もうお風呂に入って流しちゃったけど……まだあの子の味がするかもよ?」


つづく

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