イスラ×アティ



「はい……。では、そのようにいたします」
 短い交信を切ると、知らずため息が漏れた。
 本当は、こうやって誰かに使われるのは大嫌いだ。
 それでも、今は我慢しないといけない。もっとも、我慢するのも大嫌いだけれど。

 足元の砂が、小さく音を立てる。やはり、気づかれていたか。
 足音を立ててしまったと慌てているのを衣擦れで表している存在に、僕は心無い笑顔を見せた。
「また、みられちゃいましたね。アティさん」
「……イスラ、さん……。あは、ははは……」
 困ったような顔をする彼女に、内心舌打ちする。
 どうして、こいつは僕の邪魔をしようとしているんだ。僕が何をしているのか……しようとしているかなんて知らないくせに。
「夜のお散歩してたら、イスラさんの姿が見えたので……つい」
 小さく、本当に申し訳なさそうに呟く彼女が、憎らしい。
「つい」で邪魔しないで欲しい。
「僕を信じていないんですね……」
 憂いを帯びた表情をすると、とたんに弁解を始める。
「ち、違うんです!……まだ本調子でも無いのに、こんな時間に出歩いてるから……」
「当たり前でしょう。誰にも知られたくないんですから」
 砂を軋ませながら彼女に近づき、頭一つ分小さな身体を見下ろす。
 そして、耳元に小さく囁いた。
「誰にだって、人には知られたくないことの一つや二つ、あるでしょう?」
 耳にかかった息がくすぐったかったのか、彼女は目をぎゅっと瞑って耐えていた。
 そんな姿に、気まぐれが沸いた。
 そのまま彼女の耳朶を、ペロリと舐める。
「ひゃっ……」
 案の定身を竦ませた身体を捕まえて、更に耳元に言葉を送り込んだ。

「たとえば、貴方の弱点が耳……だとか。ね、アティさん?」


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