エロ魔剣シリーズ4 スカーレル×アティ



同じ夜。
スカーレルは自室のベッドで一人、酒をあおっていた。
まさかソノラに、あんなことをされてしまうなんて。
なんだか自分が情けなくなって。
今日はアティを待つこともせずに、自室にいることを決めこんだ。
一応バスタブにお湯は貼ったし、ふかふかのタオルだって用意したわ。
なのに。
小さなグラスの中に残っていた酒を流し込むと、スカーレルはため息をついた。
やっぱり心配…。
グラスをテーブルに置いて、スカーレルは立ち上がる。
すると、雨がふり出したのか?ザアアという水音が遠くから聞こえてくる。
「あら…雨かしら。センセ、濡れてないといいけど…」
バスルームに向かう前にスカーレルは、自室の小窓を見た。
しかし、窓には雨どころか、水滴一つついていない。
水音は雨ではなく、バスルームのシャワーの音だったのだ。
それがわかると、スカーレルは目を伏せた。
やめよう。やっぱり、今はセンセに会いたくない。
優柔不断な自分に、スカーレルは自嘲気味に笑った。
何なんだ、いったい。自分は。行くと思えば行かず、行かないと思えば行くと。
スカーレルはすっかり自分に呆れてしまって、再びベッドに腰掛けた。

数分たって、雨のようなシャワーの音が消えた。
「お風呂、出たのかしら」
間を開けて、しとやかな足音が聞こえてくる。
きし、きしと木造の船内が鳴く。
ゆっくりとした足音が、酔いと眠気でぼやけた頭に心地いい。
いつもならスカーレルの部屋の手前で止んでしまう足音が、今日はやけに長い。
どうしたのかしら、と首を傾げていると、部屋の扉が鳴った。
コンコン。
「あ…あの…スカーレルっ」
アティだ。緊張した声で、スカーレルのことを呼んでくる。
予想外の行動に慌てるスカーレル。極力陽気そうな声で「はぁい」と応えた。
「入ってきていいわよ、センセ」
ドアの内側から、アティの入室を許可する。
なんだか、自分からこの扉を開けたくなかった。
開けてはいけないような気がして。アティが自ら入ってきてくれるのを待った。
「…失礼します…」
遠慮がちに開けられた扉の向こうからは、素肌にバスタオルをまいただけのアティが入ってきた。
「なっ…センセ」
「…スカーレル…私…貴方に見てもらいたいものがあるんです」
足音もろくに立てず中に入ってきては、床にへたりこんでみせる。
ベッドに腰掛けたスカーレルにちょうど背中を見せるような格好で、アティは言った。
「こんなもの見せたら…貴方は私のことを嫌いになるかもしれない。でも…」
思いつめたような瞳でもって、胸から巻かれていたタオルを床に落とす。
はらり、白いバスタオルが落ちると、染み一つないアティの背中があらわになった。
「……ッ」
「……」
その綺麗な背中のほぼ中央には、三本、引っ掻かれたような傷がある。
スカーレルは思わず息を呑んでしまった。
「今日は…なにに犯られたの?」
我ながら駄目な質問だと思った。傷ついた彼女には辛すぎる。
だから今までは何も聞かなかったし、触れなかった。
張り詰めたような空気の中、アティが震える唇を開く。
「…天使と…悪魔と…シルターンの…妖怪に…ッ……悪魔が…後ろから私を……そのとき…っ…爪で引っ掻かれて…っ」
泣き出しそうなアティ。
スカーレルは背中から大きな手を回し、アティの口を塞いだ。
「もう喋らなくていいわ…ごめんなさい…聞くべきじゃなかったわね……」
優しい声が耳元で響く。口に当てられたスカーレルの手はあたたかい。
とうとうアティは嗚咽をもらし、泣き出してしまった。
スカーレルは慌てて手を離す。だがアティが首を横に振ったので、その手は彼女の腰にまわした。
アティは高い声を掠れさせつつ泣きつづける。
細い肩は細かく震え、より一層頼りなげだった。
「ねえ…センセ。この傷、触ってもいいかしら…」
腰を抱くように手を組みながら、優しく囁く。
アティは何も言わず、ただ涙を流しつづけている。
それを肯定と受け取ったスカーレルは、薄い唇を彼女の背中に這わせた。
赤く、蚯蚓腫れのように膨らんだ傷口に唇が触れる。
たったそれだけのことなのに、体は敏感に反応する。
「…ッ…ぁ」
泣いたせいでうまく息ができず、アティは陸にあげられた金魚のように空気を求め喉を反らす。
スカーレルは苦しそうな声さえも無視して、傷口にキスしつづけた。

スカーレルが背中へのキスをやめる頃には、アティの体は崩れるように、床に近くなっていた。
久しぶりに与えられた彼の愛撫を少しでも感じようと、アティは大袈裟なくらいの声を出す。
「あぁ…ん…っ…う」
白い背を反らせながら、だんだんうつ伏せになっていくアティの体。
うつ伏せになったせいで押しつぶされ、はみでるように広がった乳肉。
スカーレルはそれをくすぐるように優しく撫で付け、彼女の肌を楽しんでいく。
「んん…駄目…もっとちゃんと…」
背中を震わせながら、甘えた声をあげる。
彼女に覆い被さるスカーレルは、笑いをこらえきれない様子で愛撫を続けた。
「もう…意地悪……」
じたばたと冷たい床を引っ掻くようにして体を回転させる。
天井を向いた体は床に擦れて所々赤い。
その痕も無視して、アティは眼前のスカーレルの唇を奪った。
アティはその腕でスカーレルの頭を自分に近づかせる。
「ん…っ…っつ…」
焦らせた分のお返し、と言わんばかりの激しいキス。
アティの口角からはどちらのものとも言えぬ唾液が筋になって落ちた。
銀の糸を引くお互いの顔を見つつ、スカーレルは唇を離した。
一定の距離が離れると、不意に、スカーレルとアティの目が合う。
スカーレルは胸の中をえぐられていくような感じだった。
緩く開かれた目のその向こうに、淫らな面が見え隠れしている。
これ以上は駄目だ、と思った。

「あらっ」
心の中とは裏腹に、突然スカーレルは女っぽい声を出す。
「センセったら…目の下、くまが出来てるわよ。」
「え…?」
「まったくもう…せっかくの美人さんなんだから。そういうところまで気を使いなさいな」
アティは突然の中断に驚いた様子で、きょとんとしている。
「スカーレル…?」
「毎日の寝不足が祟ってるのよ、ほぉら。今日は寝なさい」
自分を欲しているアティの眼差しが痛かった。
無理やり部屋から追い出すように、はだけたバスタオルを再び巻かせ、扉の前まで歩かせる。
「あの…」
「明日も学校あるんでしょ?おやすみなさい…」
困惑するアティをなだめるように無理に微笑んで、額に軽くくちづけた。
バタン!強い音とともに木製の扉が閉められる。
「ごめんね…センセ」
ホントはくまなんか出来てない。
自分勝手な都合で追い出したからか、スカーレルの胸がきゅっと締まった。

一方、追い出されてしまったアティといえば。
一人自室で、不安な夜明けを迎えようとしていた。
「どうして…」
助けて欲しい人に助けてもらえない。
縋りたいものが手の届く場所から消えていく。
「スカーレル…どうして…!」
何の音もしない真夜中の船内で、ただアティのすすり泣く声だけが聞こえていた。


つづく

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