レックス×パッフェル・5



部屋を二人の荒い息遣いが支配する。
男と女の匂いが充満し、むせかえるほど。
「はぁ…はぁ………って、うわぁああああ! ごめん、パッフェル。ふ、拭く物、拭く物」
パッフェルの惨状にレックスは漸く気付く。
「ほえ…?」
精液を浴び、上半身がほぼ余すことなく白く染まっている。
特に髪などは、精液が絡みつきぐちゃぐちゃになってしまっている。
当のパッフェルはぼんやりとしているが、レックスは慌ててタオルを取りだす。
「ごめんね、パッフェル。その…凄く気持ちよかったから、うう…」
ごしごし、とパッフェルの髪についた精液を優しく拭き取る。
「いーんですよ…。レックスさんが気持ちよくなってくれたなら、嬉しいです」
「あ………う…」
無邪気なパッフェルの微笑みに、レックスは赤面する。
それきり二人とも黙り、部屋にはタオルでパッフェルを拭く音だけが響く。
レックスに髪を拭かれ顔を優しく拭われ、パッフェルは陶然とした笑みを浮かべている。
「私…」
「ん?」
「………こういうこと教えられて育ったんです、男の人を…どうやったら喜ばせられるか」
「っ………」
淡々とパッフェルは語りだす。
「スカーレルが…言ってましたよね? そうやって男を殺すことだけを…教え込まれてきたんです」
レックスは無言で唇を噛む。
俯き、パッフェルの顔を見ることも出来ず、ただ唇を噛む。
既に精液は拭き終わり、タオルは明後日の方向に投げてある。
「そんな顔しないでください、レックスさん…」
優しく、パッフェルはレックスの頬に手を伸ばす。
「そのおかげで…レックスさんにいっぱいよろこんでもらえて…私嬉しいんです」
「…パッフェル………」
「聖王都で、私を助けてくれた人に言われたんです…『“今まで”の自分を無いことには出来ない。“今”をどう考えるか』だって」
優しく優しく、パッフェルは両の手をレックスの頬に添える。
「レックスさんに…喜んで…気持ちよくなってもらえるなら…私の今までの人生も無駄じゃなかったって思ったら…嬉しいんです」
「…パッフェルっ…」
パッフェルの指が、優しくレックスの目じりを拭う。
この世界で一番優しく、一番強く、一番愛しい人が泣いていたから。
「泣かないでください、レックスさん。泣かないで…」
「パッフェルっ…だって…泣いてるじゃないかっ!」
泣くことを堪えず、ただ涙を流すに任せながらレックスは叫ぶ。
満面の笑顔を浮かべたパッフェルが、涙を流していたから。
「あれ…どうしてでしょう? 私…こんなに幸せな気持ちなのに…」
零れる涙を拭うことなく、パッフェルはただ幸せな笑みを浮かべている。
「………嬉しい時だって人は泣くんだよ、パッフェル」
レックスはパッフェルの頬に両手を添える。
「あ………」
と、パッフェルが思った時には、優しくやさしい口付けをされていた。




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