鬼畜兄弟シリーズ 脱走編〜綾と夏美



その話を聞かされてはらわたが煮えたぎるような思いを夏美は感じた。あれから自分達の身の回りに起こった痛ましい出来事。それを綾と互いに話し合った。それで分かったことがいくつかある。自分達を拉致した少年達。彼らは複数であること。不思議な力を使いロボットや悪魔のような怪物を使役していること。そして綾の後輩の絵美が彼らに捕らえられて辛い陵辱を今もなお受け続けているということ。
「絵美ちゃん…多分今も…酷いことをされてると思います。わたしは…どうすることもできなくて…うっ…ぐっ………」
絵美のことを思い出し涙混じりに綾はしゃくりあげる。苦しんでいる後輩を助けられなかった自分の無力感が再び頭をもたげてくる。
(そんな…ひどい…何てことを………)
絵美という少女に夏美は面識がない。だが彼女が味わったであろう苦しみは夏美にも理解できる。夏美自身、あの少年に陵辱され純潔を奪われる手前にまでさらされたのである。あるいは絵美同様の仕打ちをこれから自分達も受けるのかもしれない。そう思うと悪寒が走る。そしてそれ以上にあの人でなし共に対する怒りがこみ上げてくる。後輩を助けられない綾の悔しさ。それも痛いほどに伝わる。
自分が綾の立場だったら悲しみで胸が裂かれそうになるだろう。いまだ落ち込む綾に対して夏美は意を決してがっしりと肩を掴んで言葉を吐き出した。
「一緒に逃げようよ綾!その絵美って娘も助けてさ。」
「夏美…さん………。」
夏美のその言葉に綾はしばし意識をとられていた。自分をまっすぐに見据えているこの目の前の少女。先ほど出会ったばかりの相手。それなのに何故か心落ちつかせるものを感じさせてくれる。今、夏美の言った言葉。まさしくその通りだと理解できた。そう大事なことは今これからどうするか。絵美が今もなお苦痛を受け続けているのならばそれを助けられるのは自分しかいないのではないか。何が出来るのか。具体策なんて一つも思いつかない。でも踏み出す気持ちがなければ全てははじまらない。そのことにようやく気づく。
「ありがとうございます……夏美さん…うっ…うぐっ……」
そう返事して夏美によりかかる形で涙をこぼす綾。悲しみじゃない。喜びだ。自分は一人ではないということ。こうして自分に手を差し伸べてくれる相手が側にいてくれるということ。そのことが嬉しかった。こんな何もかもに絶望しそうな状況においては。
「ううん、お礼を言いたいのはあたしの方だよ。あたし一人だったら多分もう駄目だった気がする。一緒にその絵美ちゃんを助けようね。」
そういって夏美は綾の身体を抱きしめる。相手に泣きつきたい気持ちは夏美も同じだった。心が挫けそうな現実。それでもともに支えてくれそうな仲間に出会えた。そのことが夏美にとってどれほど救いになっただろうか。何も先は見えやしない。それでも二人なら乗り越えられる。そう淡い希望を抱いて。

「………!?」
その刹那である。ガチャンと金属の落ちる音が響いたのは。重たそうな金属製の扉。それがギシギシと音を立てて開いてくる。
「誰!?」
とっさに身構える。いったい何者か。その問に答えるのに夏美の脳は数瞬を要したが考えてみればすぐに思い当たる。果たしてその相手は自分が思い浮かべたものとまったく同一の姿をしていた。
「やあ、ナツミ…それにアヤだったね。僕はキール。そっちにいるソルの兄さ。」
「まあ、俺のほうもはじめましてかな。もう兄さんに先に言われたがソルだ。」
と互いに初対面の相手にたいして軽く自己紹介する二人。夏美の肩が震える。膝が笑う。恐怖しているのだ。この得体の知れない二人に対して。先ほどまで彼らの非道に対して感じていた憤り。それさえも押さえつけられるほどに恐怖を刷り込まれていた。
「な…何なのよ!あんた達っ!!」
そう叫び返すのが精一杯だった。夏美の顔色はみるみる青くなっていく。
「どうしてこんなことをするんですか!絵美ちゃんやわたしたちにっ!!」
今度は綾のほうが問いかける。蒼白した夏美とは対称的に顔を紅潮させて。
「そうだね。目的のため…なんて言っても君たちにはわからないか。君たちには少し僕らに協力して欲しいことがあってね。」
「協力?」
「何のためとかどうやってとかも答えるのはなしだ。まああんた達にはこれからこの屋敷で過ごしてもらう。あんたらをどうするかはまあ俺達の気分次第ということで勘弁しといてくれ。」
「何なんですか!ちっとも答えになっていないじゃないですか!」
曖昧なことしか言わない二人に対して綾は噛み付く。わけも分からずに自分を、夏美をそして絵美を苦しめられているというのに。その憤りが綾の中で膨らんでいた。
「絵美ちゃんをもう解放して上げて下さい!なんであの娘があんな目にっ!!」
そこまで吐き出すと涙ぐんで嗚咽をもらす。またしても綾の脳裏に絵美の姿が思い浮かぶ。泣き叫び綾に救いを乞う姿。あまりにも痛ましく綾の心を締め付ける。
(綾…………)
そんな綾の様子に夏美は心を詰まらせる。こんな得体の知れない怪物のような少年達。それに対して臆することなく相対する綾に自分が恥ずかしくなった。さっきまで綾に対して偉そうなことを言っておきながら実際に彼らに相対して怯えすくむだけだなんて。勇気を振り絞って二人を見据える。少しでも怪しい動きを見せたら自分が飛びかかろう。それで少しでも綾の助けになるのならと思って。
「エミ…ああ、あの娘か…そういや今どうしてるっけソル?」
「地下室だろ。昨日術が途中で解けたからな。一から処理をやり直しだよ。」
尋ねるキールに対してやる気がなさそうにソルは答える。
「処理……?」
眉をひそめて呟く綾。嫌な予感しかしない。その響きに嫌悪を感じる。
「今頃いい声で哭いてると思うけどな。アンタの名前でも呼びながら。」
その一言で綾も夏美も悟った。絵美が現在進行で何をされているのかを。
(こいつ等!!)
夏美の頭に血流が脈打った。ギリッと歯を噛み締めて相手を見据える。見ず知らずの少女を拉致して辱め苦しめる外道たち。吐き気がしてくる。今にも掴みかかりたくなる衝動がこみ上げてくる。許せない。そんな思いだけが胸いっぱいに広がってくる。
「君たちと違って本来ならあの娘は僕達の標的ではなかったんだけどね。まあ可哀想だけど仕方がないさ。目撃者の口を封じるのは基本だから。」
冷たい微笑を浮かべて言い捨てるキール。その様子に夏美の身体を走る衝動はより強く抑えきれないものとなる。許せない。人間を何だと思っているのだろうかこの連中は。
「うあああぁぁっ!!」
「えっ!?」
突然響く叫び声その主は夏美ではなかった。ギョッとして見やる。すると綾がソルたちに対して我も忘れて飛び掛っていた。
「うおっと!!」
大げさな身振りでソルは綾をひらりと交わす。交わされて勢いよく綾は転倒するがすぐにむっくりと立ち上がって涙で崩れた顔を向ける。
「どうして……どうしてそんなことをっ!!絵美ちゃんが貴方達に何をしたって言うんですか!?こんな……」
激昂して言葉をぶつける。こんなことしてもこの鬼畜達には堪えはしないだろうが。絵美の顔が不意によぎる。自分に懐いていた可愛い後輩。純粋にいい娘だと思う。そんな絵美をこの少年達は無惨に犯し、辱めて今もなお苦痛を味あわせている。許せない。許せるはずなんてない。
「おい、どうする?キール兄さん。」
「まあ、大人しくさせるしかないだろう。」
豹変した綾に少し驚きの色を浮かべて二人は話す。すると夏美の目に紫色の石が止まった。キールが今懐から取り出そうとしている。
(いけないっ!!)
咄嗟に駆け出す。あの光る石。あの石を使って彼らは不可思議な力を行使する。
今あれを使われたら綾は。そう思い全身の体重を乗せてキールに肩からぶつかる。
「ぐっ!!」
軽くうめいて壁にぶつけられるキール。その弾みで石が懐からこぼれる。夏美も反動で尻餅をどすんとつく。
「夏美さん!!」
今度は綾の方が夏美に気をとられる。それは時間にしてみればほんの数瞬だったろう。だが十分な時間だった。一人だけフリーのソルが行動を起こすには。
「……きゃうっ!!」
綾は容易く背を床に打ち付けられた。起き上がる暇もなく馬乗りにされる。見上げると自分に乗りかかっている相手、ソルは冷たくこちらを見下ろしていた。
「綾!!…うぐぅ!!」
組み伏せられた綾に夏美は声をかける。しかし彼女の方もまたすぐに後ろから羽交い絞めにされる。キールがその細い身体に似合わぬ力で夏美を押さえつけてくる。
「こうなると思ってあらかじめ憑依を済ませておいてよかったよ。」
「身体使うの苦手な俺たちでもこのぐらいは出来るしな。」
憑依召喚術。それによる筋力の増強は本来なら非力な術士の二人にもか弱い婦女子を組み伏せる程度造作もなくさせる。一転して綾と夏美は窮地に立たされる。
「いきなり飛び掛ってくるとは思わなかったな。この間も思ったけど見かけによらず結構気が強いんだな。」
そう綾を見下ろしながら言うソル。瞳に移る綾の顔には自分達への怒りが見てとれる。
「こんな…こんなこと…許しません!わたしは絶対に貴方達を許しません!!」
涙顔で叫ぶ。いまだ激情が冷めない。自分を。可愛い後輩を。そして今さっき出来たばかりの友人を苦しめる者たち。彼らに対する憎しみ。怒りは綾の中でとぐろをまいている。虚勢とは知りつつもつっかからずにはいられない。
「やれやれ、こりゃ少しばかりお仕置きが必要だな。」
そう言ってソルは綾の胸元に手をやる。そのまま力任せにはだけさせる。いきなりのことに悲鳴をあげることを綾は忘れた。
「綾!!ちょっと離してってば!」
綾が襲われようとしている。だが夏美は押さえつけられどうすることもできない。歯噛みする。ソルの手は綾にさらに迫っていた。
「随分と後輩を気にかけてるようだが…なんなら同じようにしてやってもいいんだけどな。」
冷たい視線に綾はたじろぐ。犯される。という予感が身体を走り抜ける。どうすることもできないのか。手足をばたつかせて抵抗を試みるが無駄に終わる。ただ手に石のようなものが触れたのでそれを咄嗟に握る。
(そんな…こんなことで……)
絶望がよぎった。これから自分は犯されるのだろう。絵美がされたように。おそらくは夏美も。さっき誓い合ったばかりではないか。絵美を助けて二人でここから逃げ出すと。それがこんなところでもう終わってしまうのか。
「い…やぁぁぁぁぁぁ!!!」
「ん……!?」
「まずい!離れるんだ、ソルっ!!」
すると光がひらめいた。キールの呼びかけも間に合わずソルは直撃を受ける。大きく仰け反って倒れるソル。綾は何が起こったのかもわからずキョトンとしていた。その手に紫色の、先ほどキールが取り出そうとしていた石を握り締めて。
(チャンス!)
自分を抑えるキールの手が緩んだのを感じ、夏美はすぐにその腕の中を逃れる。気づいたキールが夏美の方を向くとガツンと鈍い音が響いた。その場にあった置物で夏美がキールを殴り倒したのだった。気を失うキール。
「今のうちに逃げよう、綾!!」
「えっ…?あ…はい。」
まだ何が起こったのか分からず呆然としていた綾だったが夏美に声をかけられてすぐに駆け出す。二人して向かうは扉の向こう。この屋敷への脱出口を。そして囚われている絵美を捜し求めて。

「はぁ…はぁ……」
動悸が激しい。無理もない。あれから彼らが意識を取り戻さないうちに一刻も早く逃げ出そうと全力で疾走し続けたのだから。勝手のわからぬ屋敷。想像以上に広くその中を駆け回るだけで息が切れてきた。
「大丈夫?綾。」
自分以上に疲れきった様子の綾に夏美は声をかける。綾はこちらを向いたが呼吸が整わずすぐには返事できなかった。大きく息を吐いてから答える。
「ええ……大丈夫です…夏美さん。」
とは言うもののその表情からは苦しさが見て取れる。運動部の夏美でさえ息切れをきたしているのである。それも当然だろう。
「あ…その…さっきはごめんなさい。わたし…一人で勝手に暴走して夏美さんに迷惑を………」
「そんなことないよ。あのとき綾が飛び出さなかったらあたしの方が先にキレてたもん。本当…あの二人……」
唇を噛み締める。今こうしているうちにも綾の後輩、確か絵美という名前だったかが辛い責め苦を味わっている。それを思うと吐き気さえもよおしてくる。あのとき二人が二度と目覚めないぐらいにこっぴどく叩きのめしておけばよかったと今更ながらに後悔する。
「絵美…ちゃん………」
また絵美のことを思い出したのか綾の表情は曇る。泣き出すまではしなかったがその瞳は涙で潤んでいる。綾の気持ちを察したか夏美は軽くその肩にポンと手を置いて言う。
「助けよう。絵美ちゃんを。あたしも手伝うからさ。」
「………はい。」
そういって目にたまった涙をそっと綾は拭う。夏美の心遣いに感謝して。

地下への階段は薄暗く長い螺旋式のものであった。囚われの絵美を探す手がかり。
地下室という言葉を思い出したときにその入り口を見つけられたのは僥倖といっていいだろう。心情的には駆け下りたくはあったが視界だけでなく足場も悪く手すりさえない。転び落ちて最悪転落死などという事態は避けたい。そう言ったのは綾だった。その言葉に従って慎重に二人とも足場を確かめながら降りる。先行く綾の背中を見て夏美はこう思った。
(強いな。この娘。)
おそらくは夏美同様の仕打ちを彼らから受けていたのだろう。それにも関わらず後輩を思って真っ直ぐに彼らと相対した。いざ彼らを前にしたとき夏美はすくんでしまったのに。今だって本当ならすぐでも駆け下りたいだろう。それを先程の反省からか自制して更には先導を自分から勤めている。見た目と裏腹に意外と行動力がある。この娘と一緒ならば何かが上手くいきそうなそんな甘い夢想さえ感じる。こんな出会い方じゃなければいい友達になれたかもしれない。
(ううん。)
そこまで胸中で呟きながらかぶりを降る。別にここから抜け出した後からでも綾には会おうと思えば会える。今だってこんな状況の性とはいえ目的を同じくする大事な仲間だ。絵美という娘を助けて無事に脱出できたら綾とは友達になろう。
そんなことを考える。きっといい関係がつくれそうだ。
「夏美さん?」
「えっ?あ、ごめん。ちょっとボーっとしてた。」
夏美が思案している間に目的地に辿り着いた。黒塗りの扉。絵美が捕らえられている地下室。幸い鍵はかかっていない様だった。覚悟を決めて二人はその中へと足を踏み入れた。

覚悟はしていたはずだ。絵美が今どのような状態にあるのかを。最悪の想像図。それに心を痛めていた。だが現実は想像の上を軽く飛び越えていく。息が止まる。目の前が真っ暗になる。本当に衝撃的な出来事に遭遇したとき人は声を上げることも忘れて思考停止してしまうのだ。
「何……これ……」
綾の隣にいる夏美も同様のであったようだ。目を見開き顔を引きつらせて困惑している。目の前の現実がそうではないと頭の中で懸命に否定しながら。ゴポリ。小さな音。ヨーグルトのようなゲル状の塊がそんな音を立てて溢れ出している。絵美の小さな身体の穴という穴から。その肌は付着した液体が乾燥して粉をふいていた。その乾燥した痕に黄ばみさえした液状の物体がべっとり塗りたくられている。絵美の肌、秘部、臀部、顔、髪の毛に至るまで白濁に汚されていない箇所は一つとして存在しない。長時間の酷使に赤く充血した秘肉。その表面をつつむ白く濁った液汁。対照的なコントラストさえかもし出している。絵美のいる場所。そこは絵美からたれ流れた液体が泉を作っているかのようにも見えた。白い泉の中心で虚ろな瞳で絵美は寝転がっている。生気が一欠けらも感じられない。ただ呼吸をするごとに胸部が膨らみその都度、絵美に付着した液汁もずり落ちる。思い描いた悪夢の更に上をいく無惨な姿。その姿に麻痺した思考がようやくに動き始めて。
「嫌ぁぁぁぁぁぁぁぁぁっっっっ!!!!!!」
綾と夏美の大音響の悲鳴が地下室の壁にぶつかって反響する。


つづく

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