二人の絆編〜夏美と綾〜その2



「……あ…あぁ……」
開いた口が塞がらないとはこのことだろうか。この部屋に誰かが入ってきた気配なんてなかった。それなのに相手はこうして夏美の目の前に存在している。釘付けになる視線。体は小刻みに震える。身体の芯から湧き上がる恐怖に。
「やだぁっ!来ないで…来ないでよっ!!」
思わず飛びのいて後ろずさる。相手を制するように腕を振り回す。そんなことは何の意味もなさないことを知りつつも。だがどうしたことであろうか。夏美の視界から相手の姿が消失していた。
「…あれ?……えっ…?」
突然消えた相手の姿に夏美は困惑する。確かにそこにいたはずだ。だが姿が見えない。煙のように消えてしまった。きょとんと虚空を見つめる。
「……幻?…だったのかな……」
しばし当たりを見回す。自分と綾以外の人影らしきものは一つも見当たらない。幻。追いつめられた夏美の精神状態が生み出した幻覚。おそらくはそうなのであろう。大きく溜息を吐いて夏美は安堵する。
『クスクス……その方が良かったですかぁ?』
「……っ!!」
刹那、背後からかかる声。思わず鳥肌がたつ。嘘だ。こんなことがありえるはずはない。だが後ろから身体に絡みついてくる細い少女の腕にリアルな感触を夏美は実感させられた。
『えへへ…へへ…この間の続きでもしましょうか…えへへ……』
「…い…い…ぃ…嫌ぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!」
背後から囁かれる絵美の声に夏美の恐怖心は頂点に到達した。
「ヤダッ!やだやだぁっ!!止めてっ!止めてよぉっ!…ひっ…うっ…嫌ぁっ!!」
『えへへ。そんな風に怖がるの見てると…えへへ…もっと虐めたくなるんですよね…』
既に夏美は半狂乱の状態にあった。無理もない。自分をボロクズのように陵辱した相手がすぐ側で自分を拘束しているのだ。そんな夏美を見ていると絵美の嗜虐心は余計にそそられる。夏美の寝巻きの隙間から手を入れる。もぞもぞと弄りながら絵美の手が片方は夏美の胸に、もう片方は夏美の秘部へと侵入を果たす。
『んふふ。こうやって虐められるのが好きなんですよね。エヘへ。』
「やっ…ひっ…いっ…やっ…ひんっ…やめっ…やっ…嫌ぁぁ……」
まとわりつくような絵美の指先は第二関節まで夏美の膣内に入り込んでいる。くちゃくちゃとかき回すように絵美は夏美の膣肉をほぐす。それと同時にもう片方の手が薄い夏美の乳肉を弄りながらその突起部をくりくりと摘みだす。夏美の脳に刺激が奔る。敏感な箇所を同時に責められて身体が反応を示しているのだ。
『あはは…もう濡れてきてますよ…えへへ…とってもエッチですぅぅ……』
「違うっ!…そんなの…そんなの…ひぃぃっ…くひっ!…ひやぁぁぁっ!」
身体は正直なものだ。自分の意思を容易く裏切ってくれる。沸き出す愛液が。全身を貫くオルガズムが夏美自身の言葉を否定していた。感じてしまっている。絵美の愛撫に。もう頭の中身がとろけてしまいそうなほどに。それほどまでに淫らなのだ。この身体は。
「やめてよぉ…ふぇぇ…やめて…うっ…ぐすっ…」
そしてすすり泣き出す。なんとも惨め。なんとも弱い。こんな矮小な存在が自分なのだ。こうして年下の少女にすら言いように嬲り者にされ陵辱される。どうしようもない。無力な弱者だ。本当にちっぽけな。
「綾…綾ぁぁっ!!」
そして綾の名を叫ぶ。助けを求めてというよりも縋り付くものを求めて。深淵な絶望の底の中でただ一人寄りすがることが出来る存在。夏美がなによりも心より依存している対象。それが綾だ。もう自分を保ってはいられない。壊れてしまう。綾がいなくては。だから求める。何よりも強く。
『えへへ…呼んでますよ綾先輩。』
既視感さえ覚えるようなことを絵美が言ってくる。夏美の全身に悪寒がはしる。慌てて夏美は綾のほうに視線を移す。するとまたしてもありえない光景に夏美は絶句する。先程まで夏美の側で寝息を立てていた綾。その綾がいつの間にか鎖に繋がれ拘束を受けていた。猿ぐつわを噛まされ涙目でこちらを見つめながら。
「…な…に?…なんなの…これ………」
ありえない。そんなはずはない。そうとしか思えない。そんな出来事の連続に夏美は戸惑う。何の気配もなしに絵美が部屋の中に入ってこれるわけがない。視界から消えた絵美が一瞬で自分の背後に回れるわけがない。さっきまで静かに寝ていた綾がいつの間にか鎖で拘束されているはずがない。これは現実ではない。夏美の理性はそう告げる。夢だ。また自分は夢の中にいるのだ。どうしようもなく絶望を流し込んでくれる悪夢の中に。
『夢だと思ってるんじゃないですかぁ?』
心の中を見透かすように囁きかける声。絵美だ。夏美の表情は強張る。こんなものは夢だ。目が覚めればすぐに解放される。そうあって欲しいと願う。だがこれが夢でなかったとしたら。そう思うと不安が広がる。
『クスクスクス♪どっちでもいいですよねぇ…絵美にとっては…夢でも現実でも…』
背後の少女は肯定も否定もしない。夢なのか現実なのかを。ただ呆然とする夏美。夢に違いないと必死で心に念じる。そんな夏美の衣服をするすると絵美は剥ぎ取っていく。
「へっ?…あ…あ……っ!!」
いつのまにか夏美は丸裸にされていた。一糸まとわぬ姿でうつ伏せにされている。この姿勢は記憶に新しい。そう極最近の忌まわしい記憶に。
「い…嫌ぁぁぁぁっ!!あぁぁぁぁぁっ!!!」
絶叫した。剥き出しにした尻肉が露になる姿勢。忘れられるわけがない。それは夏美が絵美に犯されたときとまったく同一のものであるから。
『えへへ…いいじゃないですか…どうせ夢なんですから…』
「嫌嫌嫌ぁぁっ!!やだぁぁぁっ!!」
夏美は発狂する。たまったものではない、例えこれが夢であったとしても。また犯されるのだ。あのときのように無惨に。絵美の手によって。綾の目の前で。
『往生際が悪いですよ。諦めてくださいよ早く。』
「やめてぇぇぇっ!やだぁっ…そんな…また綾の…目の前でなんてぇっ!!」
最悪な記憶が蘇る。綾の目の前で無惨に陵辱された自分。身も心も朽ち果てるほどにボロボロにされ、絶望の底へと堕とされていく姿。今も身体が覚えている。自分が壊れていく感触を。
『じゃあいきますよ。またたっぷり泣き叫んでくださいね♪』
「やだぁっ…あ…ぐぅぅ…ぎぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」
夢か現か定かでない困惑の中で夏美の悲鳴がまたしても轟き叫ぶ。
『あはは♪あはははは♪楽しいですぅぅぅ。』
「あぎぃぃぃ…やぁぁ…ひぎゃぁぁぁ!!」
泣き叫ぶ夏美の声。その甘美な響きに酔いしれて絵美はペニスバンドを装着した腰を突き動かす。ディルドーごしの感触ではあるが夏美を犯しているという実感。それがひしひしと伝わってくる。容易くも溺れてしまいそうな至上の快楽。
『えへへ…やっぱり変態さんですね…お尻パンパン突かれるのが気持ちいいんでしょう?そうなんでしょう?』
「違うっ!違うぅぅっ!…ひやぁぁっ…くひぃぃぃっ!!」
言葉で否定してはいても身体は嘘をつかない。あのときもそうだった。悶絶する苦痛の中で知ってしまった肛虐の悦び。こんな風に尻肉を裂かれ内蔵をかきまわされて。もう気が狂うほどの拷問の中で芽生えてしまった快感。感じてしまっている。こんな酷いことをされながら。
『嘘ついちゃ駄目ですよぅ…だって貴女のここすっごく濡れてますよぉ?』
「あ……う…うぁ…っぐ…うぇ…あぅ…ぅ…」
そういって絵美は夏美の秘裂を指でさする。弄る指先にねっとりとした蜜がからまる。滲み出る愛液。それは夏美の身体が悦びを感じている明確な証拠。誤魔化すこともできない。どこまでも無力でどこまでも淫乱な自分の本性を。
「見ないでぇぇっ!綾ぁぁっ!お願いだから見ないでぇぇっ!!」
絵美に犯される惨めな自分の姿。それを見つめる泣き崩れんばかりな表情の綾。ボロボロの大粒の涙を光らせて視線を覗かす。その瞳にこもるものは深い哀しみと苦しみ。夏美への哀惜と呵責。そんな綾の視線が夏美をいっそうに苦しめる。見られている。綾に見られている。絵美になすすべなく陵辱される自分の惨めな姿を。そして惨めに犯されながら感じてしまっている自分の淫らな姿を。こんな姿をこの世で一番見て欲しくない相手に。
『あはは♪変態さんですぅぅ。エッチですぅぅ。綾先輩の前でお尻を犯されて感じちゃってるアナル狂いのド変態ですぅぅ』
「違うぅぅぅ!!い…や…ぁぁぁ…あぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!」
拷問そのものの公開肛虐の最中で夏美の意識は暗転していく。

「嫌ぁぁぁぁぁぁっ!!………はぁ…はぁ…あ…えっ?」
絶叫とともに飛び起きると辺りの様子は一変していた。そこには自分を犯していた絵美の姿はない。鎖に繋がれ哀しい眼差しを送っていた綾の姿もない。変わりに今度は夏美が拘束されていた。頑丈な鎖で両腕両足ともに。
「何…よ…今度はなんなの…なんなのよ………」
それが悪夢の続きだということが夏美にはすぐに分かった。やはりこれは夢だ。こんな荒唐無稽なことが立て続けに起こるのは。最悪なのはこの悪夢がいっこうに覚める気配がないということ。どこからが現実でどこからが悪夢なのかその境目さえあやふやである。
『気がついたかい?ナツミ。』
すると耳に入ってくる声。思い出したくない。絵美以上に思い出したくもない相手。それは夏美をこんな悪夢に放り込んだ元凶。
「あんたの…仕業…なの……」
殺意さえ篭った眼つきで夏美は相手を睨む。睨まれた本人はそ知らぬ素振りで涼しい顔をしている。その涼しげな顔がいっそう忌々しい。
『さあ?僕の仕業かもしれないし、そうではないかもしれない。どっちなんだろうね。夢か現実か。そもそもどこから夢なのか現実なのか。』
とぼけ顔で回答を絵美と同じように少年、キールははぐらかす。夢か現実。そんなことはどちらでも同じなのだろう。覚めないうちは夢も現実なのだから。
『さて、君はえらくお気に召さなかったようだね。先程までの出来事は。』
「あたりまえじゃないっ!あんなの…あんなのぉっ!!」
感情が昂ぶるあまり涙腺さえ緩ませながら夏美は反駁する。冗談ではない。あれは夏美にとって最悪の悪夢だ。綾の目の前で絵美に無惨に陵辱されたときのリプレイ。最も思い出したくない過去の再現。それが延々と続いているのだ。延々と。
『ふふ、見られる側は駄目なのかい。それならよかったね。今度は君が見る側だから。』
するとにこやかに微笑みながらキールはそう告げる。今度は見る側。確かにそういった。何かが引っかかる。そんな物言い。
「今度は見る側って……っ!?」
思い至る。その瞬間に全身から血の気が引いてゆく。恐ろしく真っ青になっていることだろう。夏美の顔は。そう。思い出したくもない最悪の過去。もう一つあったのだ。それもまた夢などではなくまぎれもなく現実にあったこと。
「やだ…ぁ……ぁ……」
凍りつく。口をパクパクさせる。見たくない。聞きたくない。思い出したくない。それなのに夏美の脳内には浮かび上がってくる。そのときの陰惨な光景が。そしてそのイメージは何もなかった空間に虚像を現出させてくる。夏美の視界の内に。
「ぁ…ぁぁぁ…ぅ…ぁぁ……」
肺が震えている。おぼろげな虚像は次第に実体と化していく。音声も伴って。濡れた肉が摩擦しあう卑猥な音。絹を裂くような叫び声と同時に甘く響く喘ぎ声。とろりとチーズのようにとろけだす乳白色の液汁。知っている。この光景を夏美は知っている。
「あ…あぁぁぁ…ぁ…綾ぁぁ……綾ぁぁぁぁぁぁぁっ!!!」
実像となった虚像。悪夢の後に続く悪夢。それは夏美にとってのもう一つの最悪の過去の再現。拘束され何も出来ぬ夏美の目の前で無惨に陵辱される綾の姿がそこにあった。


つづく

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