妖姫新妻(未定)奮闘記 4



 もぅっ クリュウさまったら!

 サナレさまがお帰りになりやがってからクリュウさまはキッチンに 行かれ、シーフードカレーをお作りになられています。別に押し付けて いる訳ではありません。何時もは当然ながらお食事の用意は私がします。ですがカレーとなると、クリュウさまがお一人でお作りになられます。
 あのサクロさまのカレー試練からずっと、カレーはクリュウさまの得意料理なのです。

 サクロさまの後を継ぎ、カレーの鍛聖二代目を兼任なされないかと心配していない訳でもありませんが、何だか私から逃げていらっしゃるようで不満だったりします……

 何故に赤毛SAL…もとい、サナレさまが突然いらしたのか。私にはそれが気になって仕方が無いのです。あの女狐の事です、きっと大人しいクリュウさまをレイプしに来たに違いありません。

『げっへっへっ…クリュウ……アンタはもう、わたいのもんぢゃぁ〜〜』
『ぐすんぐすん……汚されちゃったよぉ…もうシュガレットのお婿さんになれないよぉ………』
『ぐひぃぐひぃぐひぃっ、可愛がってやるど、ク゛リ゛ュ゛ウ゛〜〜〜』
『いやぁああああ〜〜〜〜〜〜………………………』

 なんてヒドイ!ああっ 私のクリュウさまをドロドロに汚すなんて! クリュウさまの頭のてっぺんから足のつま先まで私のものなのです!!

当然、私の頭のてっぺんから足のつま先までもクリュウさまのモノです☆

ですから、私達はお互いがお互いで相互補完しているのがフツーなのです!
そこに他者が立ち入るなんて許されない事なのですっ!
ああ、私のクリュウさま…あんな女狐姉妹の妄想ワールドでドロドロにされているなんて……見えます!私には見えます!!アイツらの妄想の中で、クリュウさまは男娼をやらされているか、肉奴隷に違いありませんっ!!
なんてお下品なっ!!私のクリュウさまが半ズボンとサスペンダーだけの姿にされて、ド下品なビスチェとストッキングだけの姿のあの女狐姉妹に陵辱されるなんてぇ〜〜〜〜〜〜〜許すま〜〜〜〜じ……
「どうしたの? シュガレット」
「ひゃんっ!!」
 いきなり超至近距離で麗しいお顔を見てしまい、飛び上がってしまう私。ああ、いけないいけない。気が付いたらまた妄想に沈んでました。これと言うのもクリュウさまがかまってくださらないからですわ。ぷんぷん。
「後は一煮立ちさせてスパイスを加えるだけだよ」
「そ、そうですの……」
「うん、魚介類はすぐに硬くなるからね。味を染み込ませた野菜と分けて、野菜だけを煮てからもう一度鍋に加えた方がいいかと思うんだ」
 流石ですわクリュウさま、あらゆる面で日々精進。私のクリュウさまですから当然だといえるでしょ…あ、いけないいけない。私は怒ってるのでした。では、気を取り直してもう一度、ぷんぷん。
「今日さ、サナレが伝えてくれたんだ。コウレンさんがそろそろ本気で修業してくれるって。次からコウレンさん斧を使ってくれるんだってさ」

 え………?

 私の不機嫌さを無視する形でにこやかに話されるクリュウさま。本当に嬉しそうです。

 割と知られておりませんが、コウレンさまは斧をお使いになります。 私も以前拝見しましたが、宝石が鏤められた手斧を振るっておられました。 剣はサクロさま、槍はルマリさまとウレクサさま、復帰なされた テュマリさまはナックルです。ただご存知のようにテュマリさまが ナックルをつけるのは手加減をする為ですし、ルマリさまは存外の天才 ですので槍以外でも戦えます。サクロさまは実力を隠しまくる癖がおあり ですし、頂点たるリンドウさまはよりにもよって素手でもOKという方です。

 でもあの方が斧を手にしてクリュウさまに技をご教授してくださる という事は、クリュウさまの実力が他の鍛聖様たちに認められるレベルに 上がったという事で、シンテツさまのレベルに達する道をクリュウさまに 見せてくださるという事でもあります。それは確かに嬉しいでしょう。 実際私も嬉しいです。よかったですね、クリュウさま♪
「うん、今日という日にそう言われたんだ。とても嬉しいよ」

 今日? はて、と私は首を傾げます。そんな私を見、クリュウさまは 苦笑なさいました。ああ、失礼ですわクリュウさま! また機嫌を 悪くしちゃいます。ぷんぷん。

「覚えてない? ほら、シュガレットと初めて会った日なんだけど……」

 ぷんぷ…… え?

 私が呆然としていると、クリュウさまは白く小さな木箱を持っていらして、 私の前に差し出されました。
「前の大会の開会式の当日、ボクの護衛獣として呼び出されたんだよ? 忘れた?」

 「え? いえ、だって……」
 確かに今年、ルベーテさま前任の“琥珀の鍛聖”の跡を決める大会が 行われます。ですが、まだ開会式までは日が……

「ああ、やっぱり忘れてる。“あの事件”の記念に、開会式をその日にずらした事」

 あ、ああ、そうでした! パリスタパリスをクリュウさまは見事に霊界へ送還なられました。過去から続くこの街の柵から偉大なる精霊を解放した記念に、その日に変えたんでした! 私とした事が…

「シュガレット…あれから一年、どうもありがとう。これからも宜しくね」

 クリュウさま…あ、ああいけない涙が……

 そんな私の涙をクリュウさまが拭いてくださり、私の手にさっきの小箱を持たせてくださいました。
「これ、お礼なんだけど…気に入ってくれたらいいな」
ギョッとしてその小箱を見ます。震える手でその蓋を開けてみると…

 波のようにウェーブを持たせた銀細工。真ん中にある蒼い石を抱きかかえる様に、水飛沫を模した見事な細工のブローチがそこにありました。

 深海の鉱石を磨き上げた美しい石は、宝石をも凌駕する輝きがあります。ううん、違いますね…輝きは輝きでも、眼に直接入る光じゃありません。
 私達サプレスの妖精にとって感じる大切なモノは魂の輝き。このブローチには、溢れんばかりの想いが……私への厚意が、ギュウギュウに詰まっています。

「クリュウさま…これは……」
 恥ずかしい話ですが、涙でほとんど言葉になりませんでした。それでもクリュウさまはお答えになってくださいました。
「リンドウさんに習ってたんだ。ボクってこういう物のセンスって無いから」
 リンドウさま? ああそれで最近、リンドウさまは私をみてニヤニヤとしていらっしゃったんですね。私てっきり何時ものセクハラかと。
 でも私の為にわざわざお仕事の合間を縫い、コツコツと作り続けて…くださったのですね……も、もう、その気持ちだけで胸いっぱいです。

「あ、あはは…そ、その……カ、カレーの続きやってくるね!」

 解かりやすいですクリュウさま。今、お顔は真っ赤なのでしょうね。その顔を見られたくないのでしょう。でも私なんか涙でぐしょぐしょです。
 ああ、あんなにお優しくて素敵なクリュウさまに対してアヤシイお香を使おうとするなんて…私は何て浅はかな事を考えてしまったのでしょう。 確かにクリュウさまはやきもきさせられます。でも、私を必要としてくださってますし、私にとってもクリュウさまは宝物です。 そんなクリュウさまのお心を自分にだけ向けようとするなんて、私って何て馬鹿だったのでしょう………超反省です。

「ねぇ、シュガレット」
 どれくらいそうしていたでしょう。時間的には短かったかもしれませんが、 閉鎖空間に閉じ篭もっていた私を呼び返してくださったのはやっぱり クリュウさまでした。涙も既に止まっていますから、笑顔でクリュウさまの 元に向かいます。
「ハイ、どうかなさいましたか? クリュウさま」
「うん…これ、どうしたんだろう?」
「え? あら?」

 クリュウさまが示された寸胴を覗いてみますと、何だか異様に色が薄い黄土色の色水がありました。確かシーフードカレーをクリュウさまは…
「これは?」
「うん…スパイス入れたんだけど、何時もの色にならないんだ。どうしてかな」
 そう言えば香りも変です。妙に甘ったるいというか、香ばしいというか。あの異国の方がスパイスを間違えたのでしょうか?
「味も変なんだ、ほら…」
「あ、どうも」
 小皿に入れてくださったカレーを啜ってみます。本当にヘンな味です。これではクリュウさまが黒鍵で火葬されてしまいます。私がさせませんが。
 辛くは無く、何時もの苦味が強調されているようでいて、突然甘ったるく 感じて…何なんでしょう? 口当たりもよろしくありません。はっきり 申しまして、いくらクリュウさまのお料理とはいえお口直ししたい位なのです。

 そう、クリュウさまの汗とか…うん。そっちの方がずっと美味しそうですし。いえ、別のものでも……クリュウさまのお身体でしたら………はっ!? 私とした事がどうしたのでしょう? 何か動悸も凄いです。どっきんどっきんです。

「・・・大丈夫? シュガレット」

 ああ、お優しいクリュウさまがご心配してくださっている…でも、私はダメかもしれません……だって、こんなに胸がどきどきと……

「胸が…? あ、ホントだ……凄くドキドキしてる………」

はい、凄いでしょ…あン…っ 摘まないでください………何だか凄く敏感なんですから…・・・

「…ああ、ゴメンね……ボク、初めてだから良く解からないんだ」

 あ、いえ、その…お好きになさって結構です……・・・私はクリュウさまのものなのですから・・・・・・

「そう……? でも、ボク、何故か解かんないけど・・・歯止めが聞かないみたいなんだ………なんで、だろう?」

 いいんです、二人きりの夜はそんなもの無くても…クリュウさまは、クリュウさまのしたい事を私にしてくだされればいいんです。

「ああ、そっか………二人っきりの夜は何をやってもいいんだ……」


To be continued.




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