アルバ×イオス(♀) 11



「な……なんで……っ!?」
突然の乱入者の姿を目にしたアルバが凍りついた。
不意を突かれたというのもあるが、なによりも、その少女のことをアルバはよく知っていたからだ。
「なんでですって!? 一人前になるまで帰ってこない、なんて偉そうなこと言っておいて、そんなことも言わなきゃ分からないほど腑抜けになったの!? このスカタンッ!」
「フィ、フィズ!?」
驚きと、恐怖すら含んだ声で、アルバは乱暴に扉を開いた少女の名前を叫んだ。
「……ん、んぅ」
膝元のイオスが小うるさそうに身体を揺すって、微かな寝息を立てる。
しかし、今のアルバにはそれを気にかける余裕すら無かった。
――このままだと間違いなく殺される……!
推測でも、予感でもなく、本能が目の前に迫る危険を叫んでいる。
一方のフィズはそんなアルバのことなどお構い無しで、ずんずんと無遠慮に子供部屋へと侵入すると、ベッドからわずか数メートルの地点で立ち止まり、鬼気迫る表情を浮かべて口を開く。
「あんたが約束したんじゃない! 帰ってきたら、まず一番にあたしに報告するって!」
――あぁ、言われてみればそんなこと言ったような記憶が……。
「そして、あたしを抱いて、自分の女にしてやるんだって!!」
「いや、絶対にそんなことは言って無いぞ!?」
聞き捨てなら無いフィズの言葉に、即座にツッコミを入れるアルバ。
だが、興奮状態にあるフィズにその言葉が届くことは無かった。
狩猟者の瞳をぎらつかせながら、ジリジリと間合いを詰めていくフィズ。
対してアルバは、膝元にイオスを寝かせているせいで全く身動きが取れない状態だった。
「お、落ち着け、フィズ! これは夢なんだから、ここでならフィズでもそれぐらいできるだろ?」
「なんか無茶苦茶失礼なこと言われてる気がするけど、とにかく問答無用!」
叫ぶと同時に、フィズの足が力強く床を蹴った。反射的に瞳をギュッと閉じるアルバ。
――絶対にこんなこと、おいらは望んでないぞ!?
アルバは大事なことを失念していた。夢は楽しいことや都合のいいことばかりではなく、起きて欲しくないようなことも起こってしまうことを。そして、それらを総じて悪夢と呼ぶことを。

衝撃に備えて、身体を強張らせるアルバ。
「………………?」
しかし、いつまで経っても来るべきはずのものが来ない。
アルバは不審に思いながら、恐る恐る瞳を開いていく。
「…………な!?」
アルバの視線の先。そこでフィズが宙に浮いていた。
もちろん、いくら運動神経が群を抜いているとは言え、人間であるフィズにそんな芸当ができるはず無い。
「なんなんだ、貴様は……っ!」
桁違いの憎悪が込められた、聞くもの全ての背筋を凍りつかせる口調。
殺気を感じて目を覚ましたのか、気を失っていたはずのイオスが、じたばたと宙で手足を振り回すフィズの襟首を掴んで立ち上がっていた。
「このっ、離せ〜!」
「黙れ! せっかくアルバに膝枕してもらっていたのに、貴様のせいで……っ!」
口調に反して、言ってることはただの惚気話だった。
「あ〜、もう! だいたい、あんた誰よ!? と言うか、アルバのなんなわけ!?」
「そ、それは、その……」
それまでの冷徹な表情から一変。顔を真っ赤にさせて宙に視線を踊らせるイオス。
やがて、その視線がちらりとアルバに向けられると、慌ててそれが逸らされる。
言葉で説明する以上に、なんとも分かりやすい反応だった。
「アルバ……この卑怯者ーっ!」
「いや、なんでだよ!?」
突然のフィズの罵倒に、わけが分からず聞き返すアルバ。
「だって、卑怯じゃない! あたしの手の届かないところでこんな、こんな……。これじゃ……、あたしには、どうしようもできないじゃない……」
急激にトーンダウンしていくフィズ。その瞳には無理矢理抑え込んだ激情が、大粒の涙となって溜まっていた。
「フィズ………」
正直なところ、アルバにはフィズがなぜ泣いてるのか分からない。
だが、泣かせた原因がどうやら自分にあるらしいということぐらいは理解できた。
「あの、イオス副隊長。そろそろ、降ろしてやってくれませんか?」
「……ふん」
見るからに不満ありげな様子だったが、投げ捨てることもなくイオスはフィズをベッドの上に降ろした。
身体が自由になってからも、何かを堪えるようにジッとそのまま動かないフィズを、アルバは優しく抱きしめる。
「アルバ!?」
「………ア、ルバ…」
二人同時に名前を呼ばれた。
アルバは心の中でイオスに謝りながら、今はフィズだけに意識を集中させる。
「おいら達が泣いたときは、よくリプレ母さんがこうしてくれただろ? リプレ母さんの代わりだ、なんて偉そうなことは言えないけど」
本当は謝るべきなのだろうが、なんに対して謝ればいいのかもわからないまま、うわべだけの謝罪など出来るはずもない。
謝る以外でフィズの涙を止める方法を、アルバはこれしか知らなかった。
「……ひくっ、う……うわあぁぁぁぁぁんっ!」
堰を切ったようにアルバの胸で号泣するフィズ。
本当に変な夢だよな、と思いながら、フィズが泣き止むまでアルバはそうしていた。


つづく

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